診療内容(大腸外科について)

トップページ > 診療内容(大腸外科について)

大腸外科について

われわれのグループでは悪性疾患に特化、つまり大腸がんの臨床・研究をメインで行っています。また炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎、クローン病についても 扱っています。 図1に示すように当科における大腸癌手術症例は年々増加傾向を示し、2010年には150症例を超えました。当科の特徴としては全国平均と比較し、直腸癌症例を多数扱っています。

図1:当科の大腸癌症例の推移

現在最も精力的に行っていることは

  1. 低侵襲手術、つまり腹腔鏡手術の普及
  2. ISR(内肛門括約筋切除術)など肛門温存術
  3. 切除不能・進行再発大腸癌に対するAdjuvant Surgeryの普及
  4. 臨床試験への積極的な参加

であり、これらを当教室の治療方針として日常診療において日々研鑽しています。

ページメニューへ戻る

1.腹腔鏡下大腸手術

当科では2013年3月までに318例の腹腔鏡下大腸手術を主に大腸癌症例(結腸癌・直腸癌)に行ってきました。当教室の方針としてより早期の癌には低侵襲手術である腹腔鏡手術を普及させるとの方針を立てました。早期結腸癌症例から開始し、2008年には進行癌症例に適応拡大、その後に直腸癌症例にも腹腔鏡手術を施行するようになりました。腹腔鏡手術は低侵襲のみならず、拡大視効果で術野の展開ができる技術が身につけば、術野を誰でもみることができ、手技が安定します。よって開腹術で視野が不良になることが多い直腸癌手術こそ腹腔鏡手術が適していると思われます。

図3:当科における大腸癌手術症例の鏡視下手術率

図3で示しますように、2009年に腹腔鏡手術例が年間30例に到達し、2010年には50例を越え、2011年73例,2012年86例と年々増加しています。2012年の全大腸癌症例における腹腔鏡手術の割合は65%でした。この比率も年々上昇し、腹腔鏡手術の割合は増加していますが、大学病院ですのでより進行した患者さんがいらっしゃるため、開腹術例もあります。

図4:当科における腹腔鏡下手術の推移

図4に示しますように、直腸癌に対する腹腔鏡手術例が年々増加しています。最近では下部直腸癌に対しても腹腔鏡下低位前方切除術はもちろん、腹腔鏡下超低位前方切除術、腹腔鏡下ISR、そして腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術も行っています。また家族性大腸腺腫症や潰瘍性大腸炎においても腹腔鏡下大腸全摘術も行い、若い世代の患者さんに対しても、より低侵襲の手術を目指しています。反対に高齢者の大腸癌患者さんに対しては低侵襲手術で、安全に施行可能であることが当科のデータでも示されましたので、術後回復が早いため積極的に行うようにしています。あるいはStageIV大腸癌の患者さんに対しても、術後早期に化学療法が開始できるというコンセプトで腹腔鏡手術を行っています。 教室内で大腸領域の内視鏡技術認定医取得者は現在1名であります。今後は、後輩の指導を行いひとりでも多くの内視鏡技術認定医を輩出したいと考えています。

ページメニューへ戻る

2.ISR(内肛門括約筋切除術)など肛門温存術

機能温存手術、つまり永久的人工肛門の造設をできるだけ避け、あるいは可能な症例に対し神経温存手術を行っています。最近ではISR(内肛門括約筋切除術)という究極的な肛門温存手術を行っています。下部直腸癌に関する機能温存手術に関してですが、まず直腸癌手術における自律神経温存手術はかなり以前から力をいれています。上下腹神経叢や骨盤神経叢を損傷すると排尿機能障害や勃起・射精機能障害などの性機能障害を認めるため、これらの神経に癌が浸潤している場合は合併切除を行いますが、それ以外は可及的に温存します。
下部直腸癌症例に対し自律神経温存側方リンパ節郭清術、肛門温存術を行っています。直腸癌症例数(Ra, Rb)の推移と術式について図5に示しますが、当科では下部直腸癌症例における手術が比較的多く施行されています。一般的に下部直腸癌に対する手術は難易度が高いとされ、上述の神経温存の問題や永久的人工肛門の問題など、癌の根治性と機能温存を両立させる必要があります。術式においては肛門温存が不可能な場合、腹会陰式直腸切断術(マイルス手術)(永久的人工肛門造設)の適応となっていましたが、手術手技・器械の向上により低位前方切除術に、さらには究極の自然肛門温存術であるISR(内肛門括約筋切除術)に移行しつつあり、当科では積極的に適応がある場合にはこのISRが行われています。
当科におけるISR手術の適応基準
(1)腫瘍下縁が肛門縁より5cm以内、または歯状線より3cm以内の直腸癌(tub1, tub2)
(2)術前MRIで外肛門括約筋に浸潤していない、つまり肛門管内の腫瘍最深部が内括約筋内で、RM(外科的剥離面)が陰性となること、DM(肛門側切離端)が1~2cm確保できること これら条件がoncological的には重要な条件です。

図5:当科における直腸癌(特に下部直腸癌)に対する術式の変遷

図5は究極の肛門温存術であるISRや超低位前方切除術の推移であり、2010年10例、2011年11例、2012年14例で2013年3月までに50例を超えました。このうち25例は腹腔鏡下ISR、あるいは腹腔鏡下超低位前方切除術が行われています。現時点で下部直腸癌において、術前診断にて深達度A以深、リンパ節転移陽性例は側方郭清の適応としています。側方郭清術は現時点では開腹術で施行しているため、下部直腸がんで深達度MPまでの症例で、壁在リンパ節陰性例が腹腔鏡下手術の適応としています。

症例提示

60歳代男性
直腸診:肛門管にかかる腫瘍 大腸内視鏡検査・注腸検査:腫瘍は約4cm大、Isp型腫瘍、深達度SM massive、腫瘍下縁は歯状線から約1cm口側

 
図6A 大腸内視鏡検査            図6B 注腸検査

他院にてマイルス手術を予定され、当院に肛門温存の有無の可能性について紹介されました。この症例に対しISR(内肛門括約筋切除)+covering ileostomy (上方向D3リンパ節郭清、 自律神経温存術)を施行しました。

つまり腫瘍から約2cmDMをとり、経肛門的に腸管切除。外括約筋は温存し、内括約筋を一部切除して腫瘍を摘出し、経肛門的に結腸―肛門管吻合を施行しました。
手術所見:Isp型sSM, sN0, sH0, sP0, StageI 41×25mm
術後3ヶ月で再発のないこと、大腸内視鏡検査・注腸検査にて吻合部に縫合不全、狭窄がないことを確認し、肛門括約筋の収縮能がよいことも確認後、人工肛門閉鎖術を施行しました。 術後頻便でしたが、時間の経過とともに軽快し、現在術後1年経過すると2~3回/日となっています。

このように以前ならばマイルス手術(永久的人工肛門)となっていた症例が肛門温存可能となっています。

ページメニューへ戻る

3.切除不能・進行再発大腸癌に対するAdjuvant Surgeryの普及

 切除不能・進行再発大腸癌に対し積極的化学療法施行後にR0根治術を行うAdjuvant Surgeryの普及に努めています。  
切除不能・進行再発大腸癌に関しては、昨今大腸癌の化学療法が進化したため、転移巣が著明に縮小することを経験します。ここで切除不能例に対し、化学療法が奏効することにより根治切除に持ち込むことをAdjuvant Surgeryと呼ぶことを当教室では提唱してきました。基本的に肝転移・肺転移などの遠隔転移を発見時から認めているStageIV大腸癌や、あるいは異時性に再発してきた症例の多くが切除不能のことが多く、手術が可能となっても化学療法がメインであるというコンセプトです。  
遠隔転移で最も高頻度に転移・再発をきたす肝転移に対し今までの研究にて切除で取り除くことが最も生存期間延長や治癒の可能性に寄与することがわかっています。しかしながら肝転移が発見された時点で切除可能と判断される症例は約20%以下であると報告されており、一般的に切除不能・進行再発大腸癌症例に対するBSC(best support care)の予後は約6~8ヶ月でしたが、大腸癌治療ガイドライン2010年版で示されていますように全身化学療法が、新規抗癌剤の出現(FOLFOX,FOLFIRI,XELOXなど)や分子標的薬(VEGF抗体:bevacizumab, EGFR抗体:cetuximab, panitumumab)の登場にて飛躍的に進歩し、著しく生存期間を延長しています。しかしながらそれでも約2年を超えるMSTで治癒はまだまだ難しい状況にあります。当科においては基本的に大腸癌治療ガイドラインに基づいて治療を行っており、下記に示しますが標準治療に対し新しい治療方法を開発する多数の臨床試験にも参加しています。2005年4月から2012年12月までに230例を超える切除不能・進行再発大腸癌症例に対し積極的に外来化学療法室で外来にてQOLを保ちながら治療を行ってきました。具体的レジメンについてはオキサリプラチンベースのレジメン(FOLFOX,XELOX)が多く、それに分子標的薬の抗VEGF抗体であるbevacizumab,あるいは抗EGFR抗体であるcetuximab/ panitumumabを追加しています。オキサリプラチンベースのレジメンがFOLFIRIより腫瘍縮小率が高く、切除可能となる症例が多いとの報告が散見されるため、これらのレジメンを使用しています。最近では分子標的薬抗 EGFR抗体:cetuximabを加えることでより縮小率が改善する報告がでてきているため一次治療でcetuximabを用いる症例も増えています。上述のごとく、抗癌剤が進歩し、抗癌剤使用により腫瘍が縮小し、切除可能となる症例が散見されるようになってきました。よって当科では、

  1. 切除不能・進行大腸癌症例に対し、抗癌剤化学療法を行い腫瘍を縮小させ、化学療法が奏効しているうちに根治術施行 (肝転移を中心に)を行う
  2. 手術は補助療法の一つ
  3. 根治手術後も化学療法を継続する

というこれら概念を併せてAdjuvant Surgeryと提唱し、切除・不能進行大腸癌において約2年のMSTではなく、更なる生存期間延長を目指して、あるいはCareからCureへの挑戦をテーマとしています。

症例提示

40歳代男性
2005年9月 横行結腸癌にて横行結腸部分切除術施行。
SE,N2,P0,H3,StageⅣ、病理検査結果:mod,se,n2,H3,ly3,v3,StageⅣ。
多発肝転移(図7:H3 最大80mm, 6カ所)に対しFOLFOX4治療を開始。
治療前は切除不能肝転移として4コース、8コースと抗癌剤投与し、図7の如く腫瘍は83%縮小、PRと判断しました。
切除可能と判断してFOLFOXを9コース施行後Adjuvant Surgeryつまり肝部分切除術(S4, S5, S8)を施行。病理学奏効度はGrade2でした。
Adjuvant Surgery後2年11ヶ月経過後肝S4に3cm大の残肝再発を認め(単発)、肝左葉切除術を施行。
最終肝切除から4年2ヶ月、初回手術から7年8ヶ月間、無再発生存中です。
抗癌剤治療が進歩した現在でもMSTは2年を超えたところですが、この症例はAdjuvant Surgeryを行うことにより治癒した可能性もあると考えられます。

図7:具体的なAdjuvant surgery例

 

Adjuvant Surgeryは2005年4月から2012年12月までに34例に施行され、Adjuvant Surgery症例の術式と治療レジメンを図8に示します。

図9に示すように当科が提唱するAdjuvant Surgeryにより生存期間が延長し、治癒する患者さんも出現してきています。切除不能進行・再発大腸癌の全症例におけるMSTは27ヶ月で,Adjuvant Surgeryの有無別生存曲線を比較してみたところ、有意にAdjuvant Surgeryが可能となった群は生存期間が延長しました(P>0.0001)。  

よって局所進行や遠隔転移をしている、以前ならば手術で切除不可能な症例に対しても、あきらめずに果敢に抗がん剤を用いて切除に持ち込むよう心がけています。

図8:Adjuvant surgery症例 術式と治療レジメン

図8:Adjuvant surgery症例 術式と治療レジメン

ページメニューへ戻る

4.臨床試験への積極的な参加

EBM構築のため、臨床試験・研究や治験への積極的な参加を行っています。適正治療の遂行・減量休薬、検査基準・病変の評価など臨床試験のプロトコールは臨床医の為のバイブルであるという方針で行っています。吉田教授就任後、当科の下部消化管グループにおける臨床試験・多施設共同研究は30試験を超えています。登録数5位以内の試験が5つ以上あり、筆頭著者で論文を投稿し、国内外の学会にて結果を発表しています。