岐阜大学医学部附属病院がんセンター

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がん治療について

乳がん

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乳がんとは

成人女性の乳房は、乳頭を中心に乳腺が放射状に15~20個並んでいます。それぞれの乳腺には小葉があり、乳管という管で乳頭までつながっています。乳がんの約90%はこの乳管の内側から発生し、乳管がんと呼ばれます。また小葉から発生する乳がんも約5~10%あり、小葉がんと呼ばれます。この他にも乳頭のびらんをともなうPaget’s病など特殊な型の乳がんがありますが、多くありません。

疫学

乳がんは、日本のみならず欧米をはじめ全世界で最も頻度の高い女性のがんです。日本では女性の乳がんは30歳代から増加し始め、40歳代と60歳代の2つのピークがあり、その後は次第に減少します。通常、がんは年齢が高くなるほど増えることが多いですが、乳がんでは、多くは子育ての時期という、社会的に最も必要とされる年代の女性に一番多く起こることが問題です。しかし死亡率は低く、女性の乳がんの生存率が比較的高いことと関連しています。男性にも乳がんがありますが、全体の1%程度です。女性の乳がんに比べて生存率が低いことが知られています。現在、増加傾向が認められ、女性のがんでは最も多くなっていると考えられます。また、国際比較では、東アジアよりも欧米、特に米国白人が高く、アメリカの日本人移民は日本国内在住者より高い傾向があります。

乳がんの発生・増殖には、女性ホルモンであるエストロゲンが重要な働きをしています。閉経後のホルモン補充療法によって乳がんのリスクが高くなるとされています。またエストロゲンが長期間作用している状況として、初経年齢が早い、閉経年齢が遅いことや、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がないことがリスク要因とされています。その他、喫煙・アルコール等の環境要因の他、乳がんの家族歴がある事などの遺伝的要因が作用して発症すると考えられています。

症状

1)乳房のしこり

乳がんは、1cmぐらいの大きさになると、自分で注意深く触るとわかるしこりになります。しこりがあるからといってすべてが乳がんであるわけではありませんし、しこりを形成しない乳がんもあるので注意が必要です。

2)乳房のえくぼなど皮膚の変化

乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、乳房にえくぼのようなくぼみができたり、皮膚が赤くはれたりします。また、乳頭がしこりの方向に引っ張られるように変形することもあります。また乳房の皮膚がオレンジの皮状になって赤くなり、痛みや熱感を伴う、「炎症性乳がん」と呼ばれる状況になることがあります。急速にひろがり、全身的に転移しやすい注意すべき病態です。

3)乳頭分泌物

しこりは触らないが、乳頭から赤い血や黒い分泌物が出ることで、乳房の異常に気が付くことがあります。このような場合も乳がんが潜んでいる可能性があります。

4)乳房近傍のリンパ節のはれ

乳がんは広がると、乳房の近くにあるリンパ節、すなわち、わきの下のリンパ節や鎖骨の上下のリンパ節に転移をきたしやすく、大きく腫れてくる場合があります。リンパ節が大きくなってくるとリンパ液の流れがせき止められて腕がむくんできたり、神経を圧迫して腕のしびれをきたしたりすることがあります。

検査・診断

1)レントゲン撮影(マンモグラフィ)

マンモグラフィーは乳房を装置に挟んで圧迫しX線撮影する検査です。腫瘤(しこり)、石灰化という光る点状の所見、乳腺構造の乱れから、触診では見つけられない小さながんが見つかることがあります。乳がん検診として、通常40歳以上の女性に対して、2年に1回のマンモグラフィー検査が多くの市町村で実施されており、費用も補助されている場合があります。乳がん検診を受けていない方は積極的に受診されることをお勧めします。

2)乳腺超音波検査

乳腺の超音波検査も有用です。40歳前後の方は、乳腺が発達しており、マンモグラフィ検査では、高濃度乳腺となって腫瘍が見つからない場合があります。このような方は、マンモグラフィーと超音波の併用検査を受けていただくことをお勧めします。

3)その他の画像検査

しこりが触れる場合やがんが疑われる場合、あるいは病変の拡がりを診断するために、MRI検査、CT検査などが行われます。

4)穿刺吸引細胞診と針生検

しこりが見つかった場合、しこりに細い注射針を刺して細胞を吸いとって調べる「穿刺吸引細胞診」を行います。またより多くの情報を得るために、「針生検」といわれる、針を刺してしこりの一部の組織をくりぬいて採取し診断する方法があります。これらの検査によって、通常はがんかどうかの診断が確定します。触診では明らかなしこりを触れず、画像検査だけで異常が指摘されるような場合には、レントゲンをとりながらマンモトーム生検と呼ばれる組織検査を行うこともあります。

5)遠隔転移の検査

乳がんが見つかった場合、転移がないかどうかの検査が行われます。転移しやすい遠隔臓器として肺、肝臓、骨、リンパ節などがあります。遠隔転移の診断のためには、全身のCT検査、胸部レントゲン撮影、肝臓の超音波検査、骨のアイソトープ検査、PET-CT検査などが行われます。

病期(ステージ)

乳がんの診断がついた場合、がんが乳腺の中でどの程度拡がっているか、遠隔臓器に転移しているかについての検査が行われます。乳がんの拡がり、すなわち乳房のしこりの大きさ、乳腺の領域にあるリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無によって大きく5段階の臨床病期(ステージ)に分類され、この臨床病期に応じて治療法がかわってきます。

0期

乳がんが発生した乳腺の中にとどまっているもので、極めて早期の乳がんです。(大きさ、範囲とは必ずしも一致しません)これを「非浸潤がん」といいます。

I期

しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節には転移していない、つまり乳房の外に拡がっていないと思われる段階です。

II期

IIA期とIIB期に分けられます。

IIA

しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節への転移がある場合、またはしこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がない場合。

IIB

しこりの大きさが2~5cmでわきの下のリンパ節への転移がある場合。

III期

「局所進行乳がん」と呼ばれ、IIIA、IIIB、IIIC期に分けられます。

III

しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、しかもリンパ節がお互いがっちりと癒着していたり、周辺の組織に固定している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節がはれている場合。あるいはしこりの大きさが5cm以上でわきの下あるいは胸骨の内側のリンパ節への転移がある場合。

IIIB

しこりの大きさやわきの下のリンパ節への転移の有無にかかわらず、しこりが胸壁にがっちりと固定しているか、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態です。 IIIc期:しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合。あるいは鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。

IIIC

しこりの大きさにかかわらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある場合。あるいは鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある場合。

IV期

遠隔臓器に転移している場合です。 乳がんの転移しやすい臓器は骨、肺、肝臓、脳などです。

治療

乳がんの治療には、治療を行った部分にだけ効果が期待できる「局所療法」として、外科療法と放射線療法があり、全身に効果がある「全身療法」として薬物療法が位置づけられます。

1)外科療法

乳房にできたがんを切りとって治療します。がん組織を含めた周りの正常組織を同時に切除します。切除する範囲は乳房内でのがんの拡がりによって決められます。通常は、乳がんの切除と同時に、わきの下のリンパ節を含む脂肪組織も切除します。これを「腋窩(えきか)リンパ節郭清」と呼びます。
乳がんの手術には、切除する範囲により次のような術式があります。

乳房のしこりを切除する手術

(1)腫瘍核出術

乳房のしこりだけを切除する手術です。吸引細胞診や針生検でがんの診断がつかない時に行われることが多く、検査の意味合いが大きく、がんの治療としては一般的ではありません。

(2)乳房部分切除術

しこりを含めた乳房の一部分を切除する方法で、「乳房温存手術」と呼ばれることもあります。病変の部位や拡がりによって、乳頭を中心にした扇形に切除、あるいはがんの周囲に2cm程度の安全域をとって円形に切除します。しこりが大きく、手術後の乳腺が大きく変形することが予想されるときや、乳がんが乳腺内で広く拡がっていることが予想される場合は、原則として温存手術の適応になりません。通常手術後に放射線照射を行い、残された乳房の中での再発を防ぎます。

(3)単純乳房切除術

がんができた側の乳房を全部切除し、わきの下のリンパ節切除は行わない場合をいいます。

(4)胸筋温存乳房切除術

がんができた乳房とわきの下のリンパ節を切除します。場合によっては、胸の筋肉の一部分を切り離すこともあります。

(5)胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)

がんができた乳房とわきの下のリンパ節だけでなく、乳腺の下にある筋肉(大胸筋・小胸筋)も一緒に切除します。現在ではほとんど行われなくなりました。

わきの下のリンパ節に対する手術

(1)腋窩リンパ節郭清

通常、乳がんの切除と同時に、わきの下のリンパ節を含むわきの下の脂肪組織も切除します。これを「腋窩リンパ節郭清」と呼びます。これを行うことで腋窩リンパ節再発を予防するだけでなく、転移の状態から再発の可能性を予測し、術後に薬物療法が必要かどうかを検討する意味で重要です。腋窩リンパ節郭清を行うと、手術をした側の腕にリンパ浮腫(むくみ)が出たり、肩の痛みや運動障害がおきることがあります。

(2)センチネルリンパ節生検

センチネルリンパ節とは「見張りリンパ節」という意味であり、乳がんから流れ出たがん細胞が最初に到達する乳腺のリンパ節のことをいいます。がんの近傍にRI(弱い放射線を出す薬)や色素を注射することにより、がんが流れ着くリンパ節を見つけます。センチネルリンパ節に転移がない時、多くの場合、わきの下の、他のリンパ節に転移がないということがわかっていますが、数%には間違いがあることが指摘されています。センチネルリンパ節生検によって腋窩リンパ節郭清を行わなくてもよい患者さんを選ぶ手段として多くの施設で行われるようになり、リンパ節郭清に伴う副作用をより安全に避けられるようになりましたが、まだ研究段階と考えられています。

乳房再建術

がんを切除する手術で失われた乳房を自分の筋肉、または人工物を使用し形成する手術です。乳がんの手術の際同時に行う方法や、後から行う方法があります。切除した乳頭を形成することもあります。現在は全て保険が適用できるようになりました。乳房切除後の患者さんでも適応されますので、再建術を希望する方は担当医に相談して下さい。

2)放射線療法

放射線治療は放射線照射を行った部分のがん細胞を死滅させる効果を発揮する局所療法です。乳がんでは外科手術でがんを切除した後に乳房やその領域の再発を予防する目的(「術後放射線療法」)で行われます。

この他、骨の痛みなど転移した病巣による症状を緩和するために行われる場合があります。副作用は比較的軽微な事が多く、局所コントロールとしても期待できる治療です。

3)薬物療法

乳がんの治療に用いられる薬は、ホルモン療法、化学療法、新しい分子標的療法の3種類に大別されます。薬物療法には薬によって重篤度は異なりますが副作用が予想されます。また副作用は治療を受ける人の個人差があり、同じ治療であっても大きく異なる場合があります。薬物療法を受ける場合には、薬物療法の目的、期待される治療効果、予想される副作用とその対策などについて十分な説明を受け、理解することが大切です。

内分泌療法

乳がんの6-7割は女性ホルモン受容体を持っており、ホルモン受容体を有する乳がんは、女性ホルモンの刺激で、がんの増殖が早まるなど変化を受けるとされます。手術でとった乳がん組織のホルモン受容体を検査することにより、女性ホルモンに影響されやすい乳がんか、そうでないかがある程度わかります。女性ホルモン受容体がある乳がんを「ホルモン感受性乳がん」、と呼び、内分泌療法による治療効果が期待されます。

生理があって卵巣機能が活発な女性では卵巣で主に女性ホルモンがつくられます。また、女性は通常50歳前後を境に卵巣の働きが衰えることにより、生理が止まり閉経となります。閉経後の女性では卵巣からの女性ホルモンの分泌はなくなり、副腎皮質から分泌される男性ホルモンが原料となって、女性ホルモンがわずかに産生されます。閉経前後で女性ホルモンのレベル大きく異なるので治療法も異なります。

ホルモン療法には抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤、卵胞ホルモン分泌刺激ホルモン抑制剤(LHRHa)などがあります。抗エストロゲン剤は、女性ホルモンのエストロゲン受容体への結合を邪魔することで効果を発揮します。アロマターゼ阻害剤は男性ホルモンから女性ホルモンへ変換を行うアロマターゼの働きを抑え、閉経後の女性で女性ホルモンの産生を抑えます。閉経前の場合では、脳下垂体に作用し、卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑えるLHRHaを使用します。

ホルモン療法の副作用は、抗がん剤に比べて軽いとされますが、更年期障害と同じ症状がでたり、タモキシフェンの長期間使用では子宮がんや血栓症のリスクが、選択的アロマターゼ阻害剤の場合には骨粗鬆症のリスクが高まります。

化学療法(抗がん剤)

乳がんは比較的化学療法に反応しやすいがんとされています。特に増殖の盛んな乳がんや、エストロゲン受容体が陰性の乳がんで有効です。化学療法はがん細胞を死滅させる一方で、骨髄細胞、消化管の粘膜細胞、毛根細胞などの正常の細胞にも障害をあたえ、白血球、血小板の減少、貧血、吐き気や食欲低下、脱毛などの副作用があらわれます。

がんに対して用いられる化学療法には注射薬や内服薬があり、使用する薬剤やその投与法によって副作用の種類や頻度などが異なりますので、事前によく主治医と相談しておく必要があります。また、看護師・薬剤師と相談できる仕組みが作られている施設も増えているので、よく相談することが大切です。

分子標的治療法 (ハーセプチン・パージェタなど)

乳がんのうち20%~30%は、乳がん細胞の表面にHER2タンパクと呼ばれるタンパク質をたくさん持っており、これは乳がんの増殖に関与していると考えられています。このHER2をねらい撃ちした治療法―ハーセプチン治療が行なわれるようになりました。これはHER2タンパク、あるいはHER2遺伝子を過剰に持っている乳がんにのみ効果が期待されます。最近は分子標的治療薬と抗がん剤を組み合わせる事で高い効果と低い副作用を目指した治療薬も登場しました。

乳がんの治療の組み立て

乳がんの治療は病期に応じて、外科手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて治療を行います。これを「集学的治療」と呼びます。

乳がんの場合、がん細胞は比較的小さい時期から乳腺組織からこぼれ出し、リンパや血液の流れに乗って乳腺から離れた臓器(肺、肝臓、骨など)に小さな転移巣を作ると考えられています。これらの微小な転移巣が大きくなると症状が出たり、検査で検出されたりするようになり「遠隔転移」と呼ばれます。遠隔転移のない、手術が可能な乳がんの場合、全身にこぼれ出している可能性のある微小転移に対して全身治療、すなわち薬による治療を行うことによって、再発を予防することができます。手術を行なった後に通常このような治療を行なうため、「術後補助化学療法」と呼びます。また、薬の治療を手術の前に行なっても、後に行なっても効果が変わらないという研究があり、より乳がんを小さくして温存手術をおこなうことや、薬の効果判定を目的に、手術前に薬物治療を行なうことがあり、これを「術前化学療法」と呼びます。

薬の治療は再発のリスクの大きさや年齢・乳がんの性質によって選択されます。再発リスクを予測する尺度にはしこりの大きさや、わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)への転移の個数、ホルモン受容体の有無などがあります。 乳がんの標準治療はがんの拡がりや性質によって治療法が違いますので、担当医と十分な相談をして決めましょう。

また、残念ながら遠隔転移が認められた場合には、がんは全身に拡がっているので、原則として全身治療すなわち薬物療法を優先して行い、全身に散らばったがんが増えるのを抑える必要があります。薬の治療は、がんの拡がりや乳がんの性質、全身状態に応じて選択されます。

がんが遠隔転移をきたしている場合には病気を完全に治すことは困難です。出来るだけ体にやさしい治療で、乳がんの進行を抑えること(共存)と、転移によって出る痛みなどの症状を和らげ、なるべく普段どおりの生活を続けられるようにすることが治療の目的となります。症状をとるためには、抗癌剤や痛み止めなど薬物療法の他に、病状に応じて手術・放射線治療などの局所療法も行います。痛みや骨折、神経圧迫の危険のある骨転移部位に放射線治療を行ったり、がん性胸水、腹水により呼吸困難や腹部の張りが強い時には、針を刺して水を抜いたりします。骨転移による骨折で、神経が圧迫される場合は、整形外科的手術が行われることもあります。また、脳に転移した場合には放射線療法や手術が行われることもあります。

検診のすすめ

乳がんは、早期に見つければ、治癒が期待できるがんです。乳がん検診を受けることで、転移を来たしていない時期に発見することが可能になります。自分は関係ないと思わないで、30歳を過ぎたら、自己検診や乳がん検診を積極的に受けて、乳がんを早期に治療していただきたいと思います。