岐阜大学医学部附属病院がんセンター

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がん治療について

肺がん

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肺がんとは

肺がんは、気管・気管支や肺胞の細胞ががん化し、無秩序に増えることにより発生します。喫煙との関係が深いがんですが、喫煙しない人でも発症します。肺がんには様々な種類がありますが、主な種類として腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4種類があります。小細胞がん以外の組織型は、非小細胞がんとして一括して論じられます。どちらの種類かによって治療法が大きく異なってくることがその理由です。

 関連リンク:日本癌治療学会
肺がんの種類の写真

肺がんの平均余命

肺がんの平均余命は、肺がんの種類(組織型)とがんの進み具合(進行度)によって異なります。肺がんの種類について、まず非小細胞がんの平均余命をがんの進み具合でいうと、I期、II期といわれる手術可能な段階では、5割から8割の人が5年間生存可能といわれています。

化学療法(抗がん剤)や放射線療法がまず選択されるIII期では、約3割の人が生存し(5年生存率30%)、IV期では、生存は2~3割です。

小細胞肺がんは悪性度が高く、治療しない場合はがんが肺内にとどまっていても3.5ヵ月で半分の人が亡くなられ、がんが全身に広がっている時には1.5ヵ月で半分の人が亡くなられます。治療の中心は抗がん剤と放射線で、がんが肺内に留まっていれば、半分の人が14~20ヵ月生存します。がんが全身に広がっている時には、半分の人が7~10ヵ月生存します。

治療決定のための検査

肺がんと診断された後、「どのような治療が効果的か」を決めるのにいくつかの検査を行います。
「どの種類のがんなのか」と同様に、「体の中のどのくらいまで広がっているか」(病期)によって行われる治療が大きく異なるので、検査は大事なものです。「がんの大きさはどのくらいなのか?(T)」、「周辺のリンパ節にがんは転移していないか?(N)」、「肺から離れた臓器にがんは転移していないか?(M)」の3つを検討して、病期を決定します。 肺を調べる「胸部X線」や「胸部CT」の他に、肝臓や副腎・骨にがんがないかを調べるために「CT」「MRI」「PET」や「骨シンチグラフィ」などを用いた検査を行います。その結果から、ⅠA期からⅣ期に分類されます。

肺がんが疑われる際に最初に行われる検査は胸部の単純レントゲン写真の撮影です。肺には空気が多いため、レントゲン写真を撮影すると空気を含まない肺がんはくっきりと浮かび上がります。簡単で今でも有用性の高い検査です。しかし、胸部単純レントゲン検査では、厚みのある身体を1枚の写真の上に重ねることになりますので、心臓や横隔膜の影にかくれてがんが見つからないこともあります。更に、そもそも単純レントゲンには写らない肺がんがあることもわかってきました。 こうした点を改善するために、最近は肺がんが疑われる患者さんには“らせんCT”を撮影しています。CT検査では身体を厚みのあるものとして画像にすることができますので、影にかくれて見つからないということはありません。らせんCTでは、身体をらせん状に検査することで、小さな肺がんも見落とすことなく捉えることができます。肺野にある肺がんを見つけるに最適の検査です。

肺のX線の写真
X線
肺のCTの写真
CT

MRIは人体を構成する組織をある程度区別して画像にでき、また、人体の割面に相当する断面を任意に作成できる点でCTより優れていますが、肺の検査で使用する場合は、呼吸の影響が出てしまい鮮明な画像ができません。肺がんの診断におけるMRIの役割は限られています。

骨シンチグラフィ(骨シンチ)についてですが、骨に付着しやすい放射性物質をごく少量注射すると、骨転移部位に放射性物質が集まります。この集まり具合を、特殊なカメラを使って撮影します。全身の骨をチェックするのに有用で、初期の検査によく用いられます。

骨シンチグラフィの写真
骨シンチグラフィ
MRI診断装置の写真
MRI診断装置

PET検査とは、正常細胞より3~8倍も多くブドウ糖を摂取するがん細胞の特性を利用した画期的な検査法です。FDGというブドウ糖に似せた薬剤を体内に注射し、薬剤ががん細胞に集まるところを画像化することで、がんの有無や位置を調べます。PETとはポジトロン・エミッション・トモグラフィーの略称で、日本語では「陽電子放射断層撮影」を意味します。

PETの写真
PET

また、患者さんの“全身の状態”も治療を選択する際に考慮されます。治療を行うための体力や呼吸機能は維持されているか? 急激な体重減少はないか? 等について調べます。

肺がんの治療

肺がんに対する治療として、①手術、②放射線療法、③薬物治療(化学療法・分子標的治療)があります。以下のように病期によって行われる治療が異なってきます。

  病期 治療法
非小細胞肺がん Ⅰ期・Ⅱ期 手術(場合によっては、手術後に化学療法を追加)
Ⅲ期 化学療法+放射線療法(場合によっては手術を考慮)
Ⅳ期 化学療法・分子標的治療
小細胞肺がん Ⅰ期 手術+化学療法
限局型 化学療法+放射線療法
進展型 化学療法

①手術

日本胸部外科学会による年間手術件数調査によりますと、呼吸器外科(肺・縦隔・胸膜疾患等)領域での手術数は2014年では約7万7千件と報告されています。このうち49.4%が原発性肺癌、10.5%が転移性肺腫瘍(いわゆる転移性肺癌)をしめており、すなわち肺がんの本邦における年間手術件数は約4万6千件となります。手術件数は年々増加しており、高齢化社会の加速に伴い今後も増加していくことが予想されます。

原発性肺癌

原発性肺癌は治療方法とその効果の面から非小細胞肺癌と小細胞肺癌に分けられます。このうち非小細胞肺癌はおもなもので、さらに腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌に分類されます。

非小細胞肺癌でI、II期、IIIA期(の内T3)の症例は手術を前提に加療しています。IIIA期のうち縦隔リンパ節転移症例(N2)は術前放射線化学療法の後に手術を行う集学的な治療を第1に考え加療しています。ただし、個々の症例を呼吸器内科・放射線科・心臓血管外科・整形外科などと十分に検討し、もっとも効果的な治療法を選択するように心がけています。

IIIB期以上は基本的には非手術療法が中心となりますが、化学療法や放射線療法により完全切除が可能と考えられれば症例により手術を行っています。詳細は呼吸器内科の項を参照していただければ幸いです。

小細胞肺癌は基本的に化学療法が選択されますが、このうち症例によっては(I期の症例など)手術を行います。

当院の年間呼吸器外科手術症例数は2015年 182例、2016年 192例、2017年 230例でした。
内原発性肺癌は2015年 104例、2016年 105例、2017年 119例でありました。

転移性肺癌

肺は体の全血流が還流される臓器であり、他の臓器で発生した癌が血流により転移してくることがあります。それが転移性肺癌です。転移性肺癌の内、大腸癌・骨肉腫などは外科的切除により予後延長が期待できる代表的な腫瘍ですが、最近では他の癌腫においても、集学的治療の一環として外科切除が行われることが多くなってきています。

当院の2017年年間手術症例数は、計40例(大腸癌21例、乳癌5例、耳鼻科3例、肝胆膵2例、腎臓2例、軟部肉腫2例、子宮癌1例、その他4例)で、多種多様な悪性腫瘍の転移性肺癌を、根治性がえられると判断した場合は積極的に手術しています。

【肺がんの手術方法】

肺切除術には、切除範囲の広いものから順に肺全摘術・肺葉切除術・肺区域切除術・肺部分切除術に分けられます。

の写真
呼吸器外科学(第3版) より引用
肺の解剖

肺は右肺と左肺からなります。さらに右肺は上葉(S1,S2,S3)、中葉(S4,S5)、下葉(S7,S8,S9,S10)からなり、左肺は上葉(S1+2,S3,S4,S5)、下葉(S8,S9,S10)からなります。

右もしくは左の肺をすべて切除するものを肺全摘術といい、肺の解剖に従って肺葉を切除するものを肺葉切除術、肺区域を切除するものを肺区域切除術といいます。肺の一部分だけを切除するものを肺部分切除術といいます。

原発性肺癌の場合は肺葉切除術(リンパ節郭清)が標準術式ですが、一部の原発性肺癌においては、縮小手術(より狭い範囲の手術、すなわち肺区域切除術や肺部分切除術)が選択されることもあります。


転移性肺癌の手術は一般的に部分切除が行われることが多いですが、肺の病巣が大きい場合や場所が悪い場合は部分切除では根治性がえられないことから肺葉切除術もしくは肺区域切除術が選択されることになります。肺葉切除術では過大侵襲(肺のとりすぎ)になることがあり、肺区域切除が望ましい場合が多々あります。しかし、肺区域切除術は区域面の同定という比較的特殊な技術を要するため、呼吸器外科専門施設での手術が望ましいと考えています。当院では、換気血流支配を利用した区域面同定法をオリジナルで考案し、残る肺の機能を損なわないように、かつ容易に区域面を同定し安全に肺区域切除術を施行しています。


日本胸部外科学会による年間手術件数調査によると、肺の一部をとる部分切除の83%、肺癌の定型手術である肺葉切除では63%がVideo Assisted Thoracic Surgery(VATS)とよばれる胸腔鏡という内視鏡、いわゆるカメラ、を使用した手術により行われています。

2~3cm程度の穴に胸腔鏡を挿入し、モニター(テレビ画面)に映し出された映像を見ながら手術を行います。胸腔鏡挿入用の穴以外に2~3カ所の同様の穴を開けて手術を行います。また、そのうち1カ所の穴は最大10cmまで延長し直接観察して手術を行うこともあります。(当科では10cmまでの皮膚切開のものをVATSでの手術として統計を取っています。)

従来は25cm程度の皮膚切開で後側方切開法というアプローチ方法で行っておりましたが、近年ではVATSにより切開する皮膚・筋肉・筋膜などはずいぶん減っており、患者さんの侵襲(体への負担)は和らぐと考えています(すべての患者さんがVATSで手術を行う訳ではなく、術前検査で適応を検討しています)。


当院の2017年の年間手術症例では、原発性肺癌に対しVATSにより行われた手術は、肺葉切除術70%(81例中57例)、肺区域切除術81%(26例中21例)、肺部分切除術73%(11例中8例)でした。

症例数をみてもおわかりいただけるように、当院では積極的にVATSによる手術を行い、必要な根治性をえられ、かつ患者さんの侵襲(体への負担)を軽減できるように、患者さんに優しい手術を行うようにつとめています。

日本胸部外科学会による年間手術件数調査による、肺葉切除の手術死亡(術後30日以内の死亡)は0.4%であります。当院の原発性肺癌に対する肺葉切除術・肺区域切除術での手術死亡の成績は2015年は0%(104例中0例)、2016年は1%(105例中1例:左舌区下葉切除術後の気管支縫合不全)、2017年は0%(119例中0例)であったことから、全国的と同等に安全に手術を行っていると考えています。


当院では肺癌に対する肺切除術のクリニカルパスを導入し、診療スケジュールを明確にし、標準化治療を行っています。診療予定(とくに検査日・手術日・退院日)を明確にすることで、患者さんの入院生活の不安を少しでも解消できるように努めています。

また、肺癌の治療を行うに当たって、根治術ができた場合でも再発することがあります。そのため、手術後も定期的に通院していただくことにしています。現在、地域の中核病院・開業医と連携しスムーズな診療を行えるように、地域連携クリニカルパスを行っています。

②放射線療法

放射線療法は、X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがんを死滅させる治療法ですが、がんが原因でおこる痛みの症状を和らげるためにも用いられます。 非小細胞肺がんでは手術による外科的切除が根本的治療となりますが、切除できないものに対しては単独または化学療法と組み合わせて放射線療法が用いられます。

一方小細胞肺がんは放射線、化学療法に対する感受性が高いため、放射線、化学療法の両者が治療の中心となります。

<ⅰ>非小細胞がんでの治療

1日1回、月曜から金曜まで放射線を照射する治療を6週間行います(通常分割照射法)。

<ⅱ>小細胞肺がんでの治療

限局がん治療として、化学療法と併用します。1日2回放射線を照射する加速過分割照射が主流です。

初回治療でがんを完全に取り除けたと考えられる場合は、脳への転移を予防するために放射線を照射します(prophylactic cranial irradiation;PCI)。

<ⅲ>対症療法として

脳や骨にがんの転移がある場合は、症状改善を目的に放射線療法を行うことがあります。

<ⅳ>副作用について

放射線療法の主な副作用に、肺臓炎があります。また、皮膚がやけどしたような状態(皮膚炎)になることもあります。

③化学療法

抗がん剤による治療を指します。治療により生存期間の延長やがんが増大するまでの時間の延長、生活の質(QOL)の改善が認められています。多くはプラチナ製剤と呼ばれる薬剤と、他の抗がん剤を併用して治療を進めます。3~4週間ごとに1回投与する治療、これを1コースとして4~6コース繰り返します。ペメトレキセドやベバシズマブが選択された場合6コース終了後もこの2剤は継続します。

非小細胞肺がん プラチナ製剤 シスプラチン・カルボプラチン
併用される抗がん剤 イリノテカン・パクリタキセル・ドセタキセル・ビノレルビン・ゲムシタビン ペメトレキセド・TS-1
分子標的治療 ゲフィチニブ・エルロチニブ・アファチニブベバシズマブ・クリゾチニブ・アレクチニブ
小細胞肺がん プラチナ製剤 シスプラチン・カルボプラチン
併用される抗がん剤 イリノテカン・エトポシド・シクロホスファミド
ドキソルビシン・ビンクリスチン・アムルビシン
<ⅰ>非小細胞肺がんでの化学療法

まず、がんのタイプを調べる「遺伝子検査」が行われます。この検査の結果によってそれぞれのがんに効く薬剤が明確になるからです。治療の選択肢は、まずプラチナ併用療法か、遺伝子検査が陽性であった場合、EGFR-TKI(ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ)、ALK阻害剤(クリゾチニブ・アレクチニブ)といった薬剤が候補になってきます。プラチナ併用療法は、プラチナ製剤と別の抗がん剤を併用した、2剤併用療法が選択されていますが、腺癌である場合、抗がん剤にペメトレキセド、分子標的薬にベバシズマブという選択肢が加わり、プラチナ製剤と別の抗がん剤に分子標的薬ベバシズマブを加えた3剤併用療法も考慮されます。EGFR-TKIはEGFR遺伝子変異検査により陽性と判定された場合、ALK阻害剤はALK遺伝子転座検査が陽性になった場合選択が可能となります。ベバシズマブ・EGFR-TKI・ALK阻害剤は分子標的薬というタイプの新しい薬剤で、癌細胞などの細胞の目印となる部分をピンポイントでねらい撃ちするため、高い治療効果と正常細胞への副作用の軽減が期待できます。

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プラチナ製剤併用療法の例
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ベバシズマブ併用レジメン(腺癌のみ)
<ⅱ>小細胞がんでの化学療法

小細胞がんは、抗がん剤治療の効果が得られやすいのが特徴です。

【A】

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【B】

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初回治療として、シスプラチンとエトポシドという薬剤を併用する方法【A】が汎用されていますが、高齢の方や全身状態が良くない方へは、シスプラチンに代わりカルボプラチンが選択されることもあります。また、進展型の場合は「シクロホスファミド/ドキソルビシン/ビンクリスチンの3剤併用療法」と「シスプラチン+エトポシド併用療法」の2種類の併用療法を交替で投与する治療【B】が行われることもあります。 上記の治療終了後90日以上経った後に再発した場合は、再度化学療法を行うことを考慮します。

<ⅲ>副作用について

抗がん剤はがんを死滅させる働きがあると同時に、がん以外の細胞にも同様の影響を与えるため、ほとんどの抗がん剤で副作用が発現します。

①骨髄抑制(こつずいよくせい)

免疫に欠かせない白血球を造り出す骨髄が抗がん剤により抑制された結果、免疫力が低下し感染症を引き起こします。分子標的治療を除くほぼ全種類の抗がん剤で白血球減少が、カルボプラチン/ゲムシタビン/エトポシド等で血小板減少が起こります。

《対策》
◇白血球減少…抗生物質を投与。白血球減少が顕著な場合はG-CSF製剤を投与する。
◇血小板減少…血小板を輸血。

②吐き気・嘔吐(おうと)

多くの抗がん剤で認められる副作用です。

《対策》
◇抗がん剤投与の30~60分前に、吐き気を予防する5-HT3受容体拮抗薬を投与。

③下痢

イリノテカン・シスプラチンや分子標的治療薬の投与で発現します。電解質異常(血液中の塩分のバランスが崩れる)に結びつくこともあるので、以下の対策が重要です。

《対策》
◇下痢止めの投与、脱水症や電解質異常が認められる場合は補液と電解質補正を行います。

④腎障害

特にシスプラチンで認められる事象です。

《対策》
◇シスプラチン投与前に1~1.5L、投与後に2~3Lの補液を行います。

⑤肺障害

重症度の高い副作用の1つであり、注意を要します。イリノテカンやパクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブで多く発現することが知られています。

 《対策》
◇定期的に胸部X線やCTで肺障害が起こっていないかを確認します。発現した場合は、投与を中止しステロイドの大量投与を行います。

⑥末梢神経障害

パクリタキセルで多く発現する副作用で、症状として投与3日後くらいからしびれが現れます。

《対策》
◇薬剤投与を中止し、ビタミン剤投与も考慮します。