医学生教育

次世代の医療を担う医学生教育に熱意を注いでいます。
1人でも多くの学生が周術期医療に従事して欲しいと願っています。

臨床実習(5年生)

概要

臨床実習を受けるM4・M5の学生のみなさん、麻酔科疼痛治療科へようこそ!

「麻酔科」とは「麻酔管理に専従する診療科」です。「麻酔管理」と聞くと、「麻酔薬の投与量を調節する医療行為」と思い描くかもしれません。しかし今日、患者中心の診療体制の中で求められる麻酔管理の範疇は大きく広がり、単なる「麻酔薬」を投与するという概念で「麻酔科」を捉えることはできなくなりました。「麻酔」とは「Anesthesia: 感覚がない状態」と記しますが、安全に麻酔状態を維持するには、薬理学的・生理学的・解剖学的な知識を得るだけでは不充分で、派生する関連分野における様々な知識や深い理解を必要とします。系統的分類や臓器別分野とは異なる、集学的な医療、集学的な学問といえます。
そんな麻酔科疼痛治療科ですが、専従する医師たちが常日頃、何を考え、学び、実践しているか、その一端でも垣間見て、後学のために役立ててもらいたいと思います。

部門紹介

A) 手術室

手術室は麻酔科医にとって臨床業務の中心となるエリアです。手術室内での麻酔準備から、麻酔導入、そして麻酔状態の維持、それに伴って変化する全身状態を制御することが担当麻酔科医に託されます。手術が終了した後、患者が曝されることになる疼痛などの様々な術後ストレスを軽減することも麻酔科医の責務の一つです。

B) 疼痛外来

麻酔科疼痛外来では、運動器や神経の障害などによって生じる疼痛によって普段の生活が妨げられている患者さんに対して、主に手術療法以外のアプローチで 疼痛緩和を図り、日常生活への復帰を支援しています。各種薬物の内服治療と、疼痛の責任部位を局所麻酔薬などによってブロックする神経ブロック治療を主な手段としています。

研修目的

延べ10日間行われる麻酔科臨床実習の目的は、「知識」と「実践」との結び付きを実際の臨床で体験し、理論がどのような場面で生かされているかを習得することにありますので、「実地見学」が最も重要となります。

A) 到達目標

  1. 術前患者の全身状態が正確に把握できる。
    手術予定患者の全身状態の把握は、安全な麻酔管理を計画・実施する上で必要不可欠なことです。必要な情報の大部分はカルテと病歴聴取から得ます。カルテにサマライズされた情報のみでは全く不充分ですので、患者を診察することは欠かせません。そうして入手した情報を統合して全身状態の評価を行います。
  2. 麻酔計画が立案できる。
    患者の状態評価と予定された手術内容から、麻酔計画を立案します。必要なモニタリング、確保すべき血管路、具体的な管理目標、注意すべき合併症への留意、予防・治療の準備、適切な術後鎮痛法の計画等々を麻酔前に決定します。
  3. 麻酔経過を理解し、口頭でプレゼンテーションできる。
    実際の麻酔経過を理解することが麻酔科臨床実習の主目的です。そして、理解した内容を他者に伝えるという行為は医師として基本的に身につけておかなくてはならない根本的なスキルの一つです。聞き手に応じて情報を取捨選択し、適切な表現を用いて説明する技能を、麻酔科臨床実習を通じて学びましょう。
  4. ペインクリニックにおける代表的疾患と治療法を理解する。
    みなさんには麻酔科の重要なサブスペシャリティである疼痛治療について、もっと多くのことを知ってもらいたいと考えています。疼痛外来と神経ブロック治療の見学を通して、術後持続鎮痛法以外の疼痛制御についても理解を深めていきましょう。

B) 経験することが望ましい疾患

  1. 全身麻酔
    手術室麻酔見学の中心となる麻酔法で、「望ましい」というより、「必修」です。基本的な考え方と流れは必ず理解してもらいたいと考えています。
  2. 硬膜外麻酔
    手術麻酔法というよりは、術後鎮痛法として施行されることの多い局部麻酔法の一つです。胸部以下の手術部位の鎮痛に広く用いられていますが、適応にはいくつかの注意点があります。
  3. 特殊手術の麻酔
    心臓血管麻酔・小児麻酔など、特別な配慮を必要とする麻酔は、多くの知識と繊細な観察が求められる領域ですが、機会(と意欲)さえあれば見学することができるでしょう。
  4. ペインクリニックの診察法
    疼痛外来で実際の診療の様子を見学してください。担当医師からの補足説明もあります。
  5. 各種ブロックの適応の理解と見学
    疼痛外来でエコーを用いた神経ブロックや、手術室で透視装置を用いた神経ブロックを見学します。ペインクリニックだけでなく、術後鎮痛のための神経ブロックも近年盛んに行われています。それぞれのブロック法の目的・使用薬物・効果持続時間の違い等を理解してください。

スケジュール

1週目
8:00~   症例提示 カンファランス
    手術部麻酔医室 3F カンファランス室   症例見学(半数)
各手術室
8:15~ 8:30~ 症例見学   症例見学
  実習ガイダンス 各手術室   各手術室 9:00~
外来見学(半数)
10:30~ 3F カンファランス室 ミニレクチャー 自由活動 ミニレクチャー
  ~2F 麻酔科外来 手術部麻酔医室 手術部麻酔医室 2F 麻酔科外来
  適宜 昼食・休憩 (1時間程度)
 
  麻酔前評価 症例見学 12:30~ 症例見学 ミニレクチャー
  各病棟・CCS室 各手術室 症例見学 各手術室 手術部麻酔医室
      各手術室    14:50~
~17:00         臨床講義
随時   発表準備 麻酔前評価 麻酔前評価
17:00~   自由活動 自由活動 自由活動
チーフ 熊澤 杉山 山田 福岡
2週目
8:00~   症例提示 カンファランス
    手術部麻酔医室 3F カンファランス室   症例見学(半数)
各手術室
8:15~ 8:30~ 症例見学   症例見学
  ミニレクチャー 各手術室   各手術室 9:00~
外来見学(半数)
10:30~ 神経ブロック見学 ミニレクチャー 自由活動 ミニレクチャー
  手術部麻酔医室 手術部麻酔医室 手術部麻酔医室 2F 麻酔科外来
  適宜 昼食・休憩 (1時間程度)
 
  13:00~ 症例見学 12:30~ 症例見学 実習総括
  症例見学 各手術室 症例見学 各手術室 手術部麻酔医室
  手術部麻酔医室   各手術室    14:50~
~17:00         臨床講義
随時 麻酔前評価 発表準備 麻酔前評価 麻酔前評価
17:00~   自由活動 自由活動 自由活動
チーフ 熊澤 杉山 山田 福岡

実習評価

A) 出席評価

麻酔科臨床実習では伝統的に出席評価を非常に重視しています。座学ではイメージし難い麻酔科の診療内容を理解するためには、臨床実習の場で実際に見聞き、経験することが最適であると考えているからです。ポートフォリオの実習出席表には、各曜日ごとに定められた責任医師から直に出席のサインをもらってください。

B) 発表評価

火曜日に見学担当となった症例については、翌水曜日のカンファレンスで症例提示を行い、それが発表評価となります。3分間のプレゼンテーションの後、質疑応答を行います。質問内容は基本事項の確認程度のことが多いですが、しっかりと見学していないと答えられないと思います。きちんと準備をして臨みましょう。担当麻酔科医のアドバイスが参考になるはずです。

C) 実習評価

出席評価と発表評価を併せて実習評価となります。病欠など、やむを得ない事情で評価が不充分な場合は、後日に機会を設けて補うことは可能です。

連絡体制

A)

実習中に麻酔科医師への連絡が必要と判断される場合、見学担当症例に関することはその症例の担当麻酔科医に、それ以外の事柄についてはすべて各曜日の責任医師(「チーフ」と呼んでいます)に連絡してください。

B)

B) 病欠・遅刻などで症例見学できない場合は、チーフ医師に連絡してください。実習グループ内のメンバーに伝言してもOKです。無断で欠席の場合は、確認のための連絡を入れることがあります。

補足

A) 麻酔法

  • 麻酔法は大まかにいって、意識が消失した状態となる全身麻酔と、意識消失を伴わない局部麻酔の2種類に分類できます。
  • 全身麻酔とは「全身麻酔状態」とする麻酔法です。全身麻酔状態とは、以下の4つを同時に満たした状態のことです。
    鎮静 意識が消失している
    鎮痛 手術に伴う痛みを軽減している
    無動化 自発運動が消失している
    有害反射抑制 生体にとって有害な自律神経活動を抑制している
    「麻酔状態」≠「意識消失状態」という理解が大切です。
  • 局部麻酔とは、麻酔薬の作用で体の一部分の知覚、特に痛覚を抑制して無痛下に手術を施行することを可能にする麻酔法です。体の一部分の無動化を得られる方法もあります。
    脊髄クモ膜下麻酔 脊髄クモ膜下腔に麻酔薬を投与して、体幹~下肢~会陰部の広範囲に知覚低下と筋力低下を得る麻酔法です。
    硬膜外麻酔 硬膜外腔に麻酔薬を投与して、留置部位に対応する限局された部位の知覚低下と筋力低下(分節麻酔)を得る麻酔法です。
    伝達麻酔 比較的太い神経束周辺に麻酔薬を局所投与して、神経支配領域の知覚低下と筋力低下を得る麻酔法です。
    浸潤麻酔 手術部位周辺に麻酔薬を局所投与して、麻酔薬の浸透する領域に限り知覚低下を得る麻酔法です。
  • 局部麻酔は、作用部位や作用時間に限界があるので、適応となる術式が限定される反面、全身麻酔と比較して全身への影響が少ないことを特徴とします。
  • 全身麻酔状態では、生理学的に様々な変化が生じます。呼吸・循環・代謝・臓器機能・体液バランス・体温調節・免疫機能といった生体維持機構のほとんどが、全身麻酔によって何らかの影響を受けるのです。麻酔導入後の患者に様々なモニタリング機器を装着するのは、この変化を正確且つリアルタイムに評価するために必要だからです。

麻酔科見学のためのチェック項目

担当する麻酔症例に応じて、以下のチェック項目を参考にして見学してください。

A) 腹部外科

  • 開腹手術か腹腔鏡手術か
  • 開腹操作に伴う合併症
  • 気腹操作の生理学的影響
  • 開腹術中の輸液負荷
  • 術後鎮痛法の選択

B) 呼吸器外科

  • 分離肺換気に用いる機材
  • 分離肺換気の呼吸生理への影響
  • 低酸素血症時の対応
  • 術後鎮痛の重要性

C) 脳神経外科

  • 脳血流障害の有無
  • 頭蓋内圧の評価
  • 術前からの神経学的異常
  • 脳血流調節
  • 中枢神経系のモニタリング

D) 心臓血管外科

  • 術前心機能評価
  • 術前心筋虚血の評価
  • 術前の刺激伝導系の評価
  • 循環機能のモニタリング
  • 具体的な循環管理方法と経過
  • 手術前後の心機能変化

E) 頭頚部外科

  • 術前気道評価と予定する気道確保法
  • 実際の気道確保法
  • 抜管判断基準

F) 小児外科

  • 患児の発達発育の評価
  • 成人の麻酔管理との違い
  • 術後鎮痛法

G) 脊髄クモ膜下麻酔

  • 麻酔作用機序の理解
  • 麻酔に伴う副作用・合併症
  • 全身麻酔との比較(特に意識と循環)

CCSミニレクチャー