診療内容

診療内容

股関節

概要

股関節外科班は、岐阜大学整形外科の最も伝統ある診療班の一つで、現在に至るまで約3500症例の股関節外科手術を行っています。取り扱う疾患は、小児から成人まで幅が広いのが特徴で、小児では先天性股関節脱臼・ペルテス病・大腿骨頭すべり症などの手術的治療を主に行っており、成人では変形性股関節症・大腿骨頭壊死症・関節リウマチなどに対して、それぞれの病状に合わせて関節温存手術(骨切り術など)や人工股関節置換術を行っています。また、近年増加傾向にある人工関節のやり直し手術(再置換術)や人工関節術後感染に対する治療なども多く行っています。

変形性股関節症

関節の軟骨がすり減り、その結果骨や関節が変形する病気で,成人の股関節疾患では最も多い病気です。我が国では、先天性股関節脱臼や骨盤側の骨の発育が悪い寛骨臼形成不全に起因するものがほとんどでしたが、最近では大腿骨と寛骨臼とのインピンジ(衝突)が原因の原発性股関節症も増加しています。進行すると痛みや関節の動きの制限などのため,歩行や日常生活動作が障害されます。

変形股関節症の病期分類

レントゲン画像での変形の程度により、4つの病期に分類されています。

  • 前期:臼蓋形成不全などはあるものの関節裂隙(軟骨のすき間)は保たれる。
  • 初期:関節裂隙の狭小化を認める。
  • 進行期:関節裂隙が一部消失する。
  • 末期:関節裂隙がほとんど消失し、高度の変形を認める。
前期
前期
初期
初期
進行期
進行期
末期
末期

治療は、薬物治療や運動療法など保存的治療も行いますが、改善が得られない場合は積極的に手術治療を行います。手術には、病気の進行の予防や関節の再生を図るいわゆる関節温存手術と人工股関節置換術があり、変形の程度・患者さんの年齢・社会的背景・希望などを考慮して手術方法を決定しています。

寛骨臼形成不全症の手術治療

寛骨臼回転骨切り術

臼蓋を球状にくり抜くように骨盤の骨切りを行い、臼蓋を回転移動させ、骨頭の被覆を改善させる手術です。軟骨の摩耗が少ない臼蓋形成不全で、股を開いた(外転)状態で関節適合性が良好となる場合に適応があります。年齢は50歳前後まで行うことができ、術後2−3週から部分荷重を始め、6−8週で一本杖歩行で退院します。

臼蓋形成不全症と寛骨臼回転骨切り術後のレントゲン
術前
術前
術後6か月
術後6か月
術後2年
術後2年
臼蓋形成不全症(術前)と寛骨臼回転骨切り術後の3D-CT
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
臼蓋形成不全症(術前)の3D-CT
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
寛骨臼回転骨切り術後の3D-CT

臼蓋形成術

臼蓋の外側に骨盤から採取した骨を移植することによって骨頭の被覆を改善させる手術です。寛骨臼回転骨切り術よりも比較的若い患者さんや関節適合性が不良な股関節に適応が有ります。

変形性関節症の手術治療

人工股関節置換術

軟骨の摩耗・関節変形が進行し、症状が強い場合に行う手術で、骨頭を切除し寛骨臼を掘削した後にインプラントを設置します。除痛効果に優れ、早期機能回復が可能で、術後2日目から全荷重での歩行訓練を開始し術後3週間程で杖歩行にて退院が可能です。インプラントの固定には、骨とインプラントの間を骨セメントで固定するセメント人工関節とインプラントと骨が直接癒合するセメントレス人工関節があり、岐阜大学整形外科では、CTおよびレントゲン写真による2D、3Dコンピューターシミュレーションや実物大立体モデルの作成を行い、患者さんそれぞれの関節および骨の形状に最も適した手術手技やインプラントを選択しています。人工関節の長期成績は、手術手技の進歩・インプラントのデザイン・材質の改良により耐久性が著しく向上しており、30年以上の長期成績が期待できます。当科では、世界的に優れた長期成績を有するデザインのインプラントを使用しつつ、より低摩耗の摺動面(関節の動く部分)の採用など最新の技術を導入しています。また、通常でも10−12cmほどの皮膚切開で最小侵襲手術を行っていますが,関節変形の程度に応じて筋肉・腱を切離せず関節包を完全に温存する更に低侵襲な最小侵襲人工股関節置換術(AMIS)を行っております。術後疼痛の緩和や早期回復が特徴です。

変形性股関節症(術前)と人工関節置換術後のレントゲン
変形性股関節症(術前)
変形性股関節症(術前)
人工関節置換術後のレントゲン
人工関節置換術後のレントゲン
CTデータから作成した実物大立体モデル
3D手術計画による可動域評価
最新技術のインプラントを使用
セラミック化金属(右)のインプラント(骨頭部分)
セラミック化金属(右)のインプラント(骨頭部分)
摩耗を最小限に抑えたポリエチレンソケット
摩耗を最小限に抑えたポリエチレンソケット
レッグポジショナーを用いた股関節前方侵入による最小侵襲手術(AMIS)

人工股関節再置換術

人工関節を長期間使用すると、インプラントと骨の結合の緩みやインプラントの移動が起こります。また、ポリエチレン(プラスチック部分)の摩耗粉により骨溶解が発生することがあります。このような場合に人工関節の入れ替え手術(再置換術)が必要になります。再置換術では、大きな骨の欠損が生じていることが多く、インプラントをしっかりと固定するためには骨の再建が必要です。当科では,同種骨移植(殺菌処理行いボーンバンクに冷凍保存)や金属補強器具を用いて骨量を回復させ、Impaction Bone Grafting法など様々な技術・インプラントを駆使して手術を行っており、初回人工股関節と変わらない良好な成績を得ています。

人工股関節再置換術
セメント人工股関節の弛み
セメント人工股関節の弛み
同種骨・金属補強プレートを用いた再置換術
同種骨・金属補強プレートを用いた再置換術

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭を栄養する血行が障害され、骨頭の骨が壊死を起こす病気です。壊死した骨は弱くなり、体重を支えきれずにつぶれてしまい(圧潰)、激しい疼痛が出現します。放置すれば、変形性股関節症に進展します。大腿骨頸部骨折・股関節脱臼の後など原因がはっきりした続発性と原因のわからない特発性に分けられ、特発性の中ではステロイドホルモン剤をたくさん投与された方やアルコールを多飲された人に起こりやすいことがわかっています。この病気は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されていて、治療は現在のところ確立された薬物療法はなく、年齢・壊死の大きさや位置・骨頭圧潰の程度等を考慮して手術治療決定します。若年者で壊死範囲が小さく骨頭圧潰の少ない場合は、自分の骨頭をできるだけ温存する骨切り術をまず考慮し、高齢者や骨頭圧潰の進行してしまった場合には、人工骨頭置換術や人工股関節置換術を行います。

大腿骨頭壊死症の骨切り術

壊死範囲を荷重部から移動させ健常な骨で体重を支える様にすることを目的としており,主に大腿骨弯曲内反骨切り術と大腿骨頭回転骨切り術があります。弯曲内反骨切り術は壊死範囲が比較的狭く骨頭外側部に健常部がある場合に、骨頭回転骨切り術は壊死範囲が比較的広く骨頭の前方または後方に健常部がある場合に適応があります。

大腿骨臼蓋インピンジメント(femoro-acetabular impingement FAI)

最近注目されている疾患概念で、大腿骨頭から頚部と臼蓋の辺縁が股関節の動きによって衝突(インピンジメント)し、その結果関節唇や軟骨が損傷され、疼痛が出現します。臼蓋辺縁の骨が突出するピンサー(Pincer)タイプ、大腿骨頭から頚部の骨が盛り上がるカム(Cam)タイプ、及び2つの混合(mixed)タイプがあります。多くの場合、保存的治療で改善しますが、症状が続く場合は、股関節鏡や関節切開により骨の突出を削る手術を行います。

混合タイプのFAI 術前3D-CT(左)股関節鏡所見 術後3D-CT(右)

膝関節

概要

岐阜大学整形外科・膝関節診療班では、様々な膝関節疾患でお困りの患者様一人一人に最も適した最先端の医療を提供します。多くの膝関節疾患は外傷や加齢などが原因で発症し、膝関節の痛みや機能低下により日常生活やスポーツ活動に支障を来たします。その支障の内容や程度は患者様一人一人で異なるため、膝関節疾患を治療する上で最も大切なことは、現在の症状だけでなく、今後の生活を踏まえた上で、その患者様にとって最適な治療法を選択することです。

主な治療

ロボット支援人工膝関節全置換術(TKA)

変形性膝関節症によってすり減った軟骨と骨の表面を切り取り、金属とポリエチレンからなるインプラントに置き換える手術です。損傷した軟骨が人工関節に置き換わることで痛みが少なくなり、日常生活が楽に過ごせるようになります。岐阜大学整形外科では2020年1月より東海地方で初めて手術支援ロボットNAVIO(ナビオ)を導入しました。この手術支援ロボットは、正確な骨切り技術と高い安全性を備えており、患者様により安心して手術を受けていただけます。2022年1月からはCORI(コリ)にバージョンアップし、正確な手術に加えて、手術時間の短縮が可能となりました。入院期間は手術とリハビリを含めて3-4週間で、一人で日常生活が送れる状態での退院となります。

人口膝関節全置換術(TKA)
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
実際の手術の様子
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
両十字靭帯温存型人口膝関節置換術

人工膝関節部分置換術(UKA)

変形性膝関節症や大腿骨顆部骨壊死症などで、部分的に軟骨が傷んでしまった場合が対象となります。部分置換術では、膝関節の一部のみ(多くの場合、内側のみ)を人工関節に置き換えるため、自分の膝の靭帯など正常な部分をより多く温存することができ、より自然な膝の動きが獲得できます。ナビゲーションを使用することで正確に設置することが可能です。全置換術と比較して体への負担も少なく、回復は早くなります。入院期間は2-3週間です。

人工膝関節部分置換術(UKA)
最新ナビゲーションを使用した脊椎手術
ポータブルナビゲーション

膝周囲骨切り術(関節温存手術)

比較的早期の変形性膝関節症や限局した骨壊死症、変形性膝関節症に進展する可能性の高い半月板損傷などが対象となる関節温存手術です。特に70歳以下で活動性が高い方、スポーツ活動の希望がある方がよい適応です。膝の軟骨の傷んだ部分に負荷がかからないように、骨を切って下肢のバランスを整えます。傷んだ部分は残りますが、正常な部分に体重を逃がすことで疼痛を改善し、病態の進行を抑制します。患者様自身の関節が温存されるため、人工関節と比較すると、より自然な膝の動きが維持され、違和感が少ないというメリットがあります。一方で、切った骨が癒合するまでに数か月かかりますので注意が必要です。入院期間は3−4週間で、一人で日常生活が送れる状態で退院となります。3ヶ月前後で重労働やスポーツ活動が出来るようになります。

高位脛骨骨切り術

手術前は膝の内側に体重がかかっているが、手術後は外側に体重がかかっている

最新ナビゲーションを使用した脊椎手術
手術前
最新ナビゲーションを使用した脊椎手術
手術後

前十字靭帯再建術(ACL再建術)

前十字靭帯は膝の安定を保つ重要な靭帯です。前十靭帯損傷はサッカー、バスケットボール、ラグビー、バレーボールなどのスポーツ中に、ジャンプ後の着地、疾走中の急激な方向転換・ストップ動作、相手との衝突などによって、膝関節に異常な回旋力が加わって損傷します。受傷直後は膝の痛みや腫れ、その後は膝崩れなどの症状が出ることがあります。放置すると高率に半月板損傷や軟骨損傷を併発し、将来的には変形性膝関節症に進行する可能性が高い損傷です。スポーツ復帰を希望される場合や日常生活で膝崩れなどの自覚症状のある場合には、症状改善と将来的な変形性関節症への進行予防のために前十字靭帯再建術をお勧めします。手術は関節鏡を用いて行います。損傷した前十靭帯を取り除き、ハムストリングや骨付き膝蓋腱を新しい靭帯として元の前十靭帯の位置に移植します。入院期間は約2週間で、安定した歩行が可能となります。術後2ヶ月間程度で日常生活がスムーズに送れるようになり、術後4ヶ月目からジョギングや競技トレーニングを状態に応じて開始します。スポーツでの試合復帰は術後8ヶ月程度を目標とします。規定のリハビリプログラム及び筋力や下肢のバランス評価を定期的に行い、個人個人に適したリハビリによる早期スポーツ復帰及び再発予防に重点を置いています。

前十字靭帯再建術
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
断裂して緊張がないACL
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
再建したACL
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
実際の手術の様子
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
作成した移植腱
前十字靭帯再建術の退院後のリハビリについて

前十字靭帯損傷の治療では手術と同様に術後のリハビリが極めて重要です。当院では独自のリハビリプログラムを作成し、岐阜県下の複数の整形外科病院・クリニックと協力し、リハビリプログラムを共有しています。連携している整形外科病院・クリニックの整形外科の先生や理学療法士の方たちと「膝小僧」グループを結成し、定期的に勉強会を行い、その場で術後患者様のリハビリについての相談を行っています。そのため、遠方からお越しの方も、退院後は出来るだけ近くの連携病院・クリニックで当院のリハビリと同様のリハビリを継続して行うことができます。

「膝小僧」提携病院 住所
大垣徳洲会病院 岐阜県大垣市林町6丁目85-1
太田メディカルクリニック 岐阜県美濃加茂市太田町2855-1
きくいけ整形外科 岐阜県関市下有知5230-1
城北整形クリニック 岐阜県大垣市桐ヶ崎町80番地
つちや整形外科 岐阜市六条北2丁目10-9
野口整形外科内科医院 岐阜県本巣郡北方町柱本592-3
森整形外科リハビリクリニック 岐阜市西改田川向137番地1
山内ホスピタル 岐阜市市橋3丁目7番22号
  • 提携病院でしかリハビリが受けられないということではありません。
  • 提携病院以外のクリニックでも同様のリハビリが受けられるように、われわれが独自に作成したリハビリパンフレットを患者様にお渡ししております。

半月板縫合術

膝の重要なクッションである半月板が損傷すると、膝の痛みの原因になるだけでなく、将来的に変形性膝関節症に進行する可能性が高くなります。当院では、半月板損傷は原則的に縫合して温存し、出来る限り膝が長持ちするようにします。ただし、どうしても縫合が困難な場合には、痛みをとるために傷んだ部分を切除することもあります。手術時間は30分〜1時間程度で、術後2ヶ月前後で痛みは軽くなります。入院期間は7−10日間で、杖なしで安定した歩行での退院となります。重労働やスポーツ活動は術後3ヶ月間程度控えていただきます。

半月板縫合術
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
バケツ柄状断裂ロッキング
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
半月板縫合後

自家培養軟骨移植術(軟骨再生医療)

外傷や離断性骨軟骨炎などによる広範囲軟骨損傷に対する治療法です。保険診療範囲内で行う軟骨再生治療法で安定した治療効果が期待できます。関節鏡手術でご自身の軟骨組織を少量採取し、それを専門機関で培養・増幅した後、4週間後に培養した軟骨細胞シートを軟骨が欠損した部分に移植します。移植術の際の入院期間は約1ヶ月間で、術後6週前後で通常の日常生活に戻ります。

自家培養軟骨移植術
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
図:時価培養軟骨の移植フロー(膝関節)
(出典:株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)

PRP/APS(自費診療)

変形性膝関節症および膝周囲の痛みを対象とした再生医療です。血液の成分の一つである血小板には、けがをした時に、傷ついた場所を治すはたらきがあります。PRPとは、Platelet Rich Plasmaの略で、多血小板血漿のことです。 多血小板血漿は、血液中の血小板を濃縮して活性化したもので成長因子を多く含みます。PRPは、私たちがもっている治癒能力や組織の修復能力、再生能力を引き出すと考えられています。 APSとは、Autologous Protein Solutionの略で、自己タンパク溶液で、特殊な過程でPRPをさらに濃縮したものになります。 PRP/APS治療では、患者さんの血液(約60ml採血)から特殊な技術を用いてPRPまたは、APSを抽出し、痛みのある体の傷んだ部位(関節など)に注射する治療法のことです。含まれる成長因子によって、注射した部分の治癒が促進し、痛みを軽減する効果を期待できます。

PRP/APS
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
末梢血・L-PRP・APSの各組成イメージ
歯髄細胞・歯髄組織由来幹細胞に関する研究
APSに含まれる抗炎症性サイトカインとその役割

肩関節

概要

肩関節は他の関節よりも動きが大きい関節です、その動きは全身の筋肉の運動に連動しています。そのため、当診療班では患者さんの全身のバランスを見ることに重点をおいて、機能診断を患者さんごとに行い、それぞれの動きを評価し必要な治療法を検討しています。またより低侵襲手術を行うため内視鏡を用いた手術を積極的に行うようにしています。

腱板断裂

腱板断裂は中高年の肩関節痛に多くみられる病態です。我々は、外来受診された患者さんの病態を理学所見による機能診断とレントゲン、超音波、MRIなどの画像診断から詳細に判断し、理学療法、注射療法、投薬療法による治療を行っております。手術が必要な症例には主に径4mmの内視鏡を用いた関節鏡視下腱板修復術を行っております。

反復性肩関節脱臼

肩関節脱臼は、経過によっては脱臼を繰り返し反復性に移行する場合があります。その場合は手術による治療が必要となります。反復性肩関節脱臼の原因として、多くの症例は肩関節前下方関節唇複合体損傷であるバンカート損傷であることが多いですが、それ以外にも関節包断裂や骨欠損などによるものがあります。我々は、理学所見による機能診断と関節造影MRI、3DCTによる病態の詳細な検討の後、関節鏡視下手術や烏口突起移行術(ブリストー法)による治療を行っています。

人工肩関節置換術

変形性肩関節症・関節リウマチに対しては、MRIによる腱板の評価・CTによる骨形態の評価の後、必要に応じた人工関節を用いた治療を行っております。腱板機能不全の関節症に対してリバース型人工肩関節が使用可能となりました。手術は日本整形外科学会のリバース型人工肩関節の実施医基準を満たした医師によることが条件ですが、当院でも適応に準じて手術を施行しております。

通常の人工肩関節置換術

変形性肩関節症

リバース型人工肩関節置換術

腱板断裂症性肩関節症

脊椎脊髄

はじめに

岐阜大学整形外科の脊椎脊髄外科には歴史があります。1952年に教室が開設されて以来、赤星義彦教授、池田清医師、和田栄二医師、清水克時教授、宮本敬医師、伏見一成医師を歴代のチーフとして、診療が行われてきました。それぞれの先生方の努力の結晶のもとに、岐阜大学の脊椎脊髄外科治療が築き上げられたと考えています。池田清医師による頚髄症に対する手術治療や統計解析による評価、和田栄二医師による頚椎後方手術、特に頚髄症に対する椎弓翻転式椎弓形成術、清水克時教授による積極的な脊椎前方手術、宮本敬医師による脊椎変性疾患や脊柱変形手術、伏見一成医師による低侵襲手術、と難度の高い症例に対しても積極的に治療に取り組んで参りました。近年、手術症例数は増加の一途をたどり、大学スタッフによる大学病院および関連病院での手術は年間300例を超えています。
2021年4月より野澤聡、岩井智守男、山田一成の3名で脊椎脊髄外科の診療・手術を行っています。野澤医師は大阪医科大学・アメリカ留学、岩井医師は獨協医科大学・イギリス・フランス留学を経て、新たな考え方・手技を岐阜大学に持ち込んでいます。これまでの岐阜大学脊椎脊髄外科班の伝統を大切に継承しながらも過去の治療成績を冷静に評価し、最先端技術や治療方針を取り入れ、患者さんに対してベストな治療を提供することを目指しています。
通常の手術枠では、頚椎症性脊髄症、頚椎後縦靭帯骨化症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなどの変性疾患に加え、後弯症、側弯症などの変形矯正、脊椎脊髄腫瘍などに対する手術を行っております。また、脊椎脊髄損傷、感染性脊椎炎や腫瘍による急性発症の脊髄麻痺に対し、高次救命救急センター医師らと協力し、緊急に治療できる体制が整っています。さらに、準緊急を要する患者さんや、痛みが強く長い期間待てない患者さんに対しては、関連病院と連携することで早期の治療を実現しています。

岐阜大学脊椎脊髄外科の特徴

脊椎脊髄の専門的な診療を行っています

一般によく見られる変性疾患(腰痛症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなど)の診療の他に、脊柱変形(側弯症、後弯症、変性側弯症など)の診療や手術、脊椎および脊髄の腫瘍(しゅよう)、頭頚部の疾患(環軸椎の疾患)、その他の脊髄の病気の診療など、脊椎脊髄に関する専門的な診療を行っています。こういった疾患は、他の一般病院では対応できない場合も多くあります。大学病院の専門医療チーム(集中治療、麻酔、内科、外科等)と協力して高度な医療を提供します。また最先端の医療機器(コンピューター支援手術ナビゲーション、脊髄誘発電位モニタリング、脊椎内視鏡など)をそろえており、あらゆる病状に対応可能です。

低侵襲(ていしんしゅう)脊椎除圧手術(安全で体にやさしい手術)

近年、医療技術の発展にともない、外科手術の低侵襲化が進んでいます。脊椎外科においても、「小さい切開で治す」「手術後の痛みが少ない」手術が可能となりました。
脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの場合には、手術顕微鏡を使用して、小切開で良好な視野の手術が得られますので、安全に手術を行うことができます。脊椎内視鏡手術は約2cmより小さな切開でヘルニアを摘出したり、骨を除圧することが可能です。
内視鏡手術をご希望の患者さんは、内視鏡設備の整った岐阜大学の関連病院と連携して治療することができます。
経皮的スクリュー刺入法は、インプラントを入れる部分の皮膚のみを小さく切開します。またCBT(皮質骨軌道)法は、背中の真ん中に切開を行いますが、従来に比べて格段に筋肉へのダメージが少なくなりました。手術後の痛みが少なく、早期の社会復帰が期待できます。

背ぼねの断面図
背ぼねの断面図. 顕微鏡を使用した片側進入除圧手術
(背中に小さな切開を行って神経を広げます)
経皮的椎弓根スクリューを用いた脊椎固定術
経皮的椎弓根スクリューを用いた脊椎固定術

脊椎ナビゲーション手術

みなさんは自動車を運転する時にナビゲーションを使用されることが多いと思います。脊椎の手術をする時にも、手術をする場所を正確に特定するためや、インプラントの設置位置を正確に判断するためにナビゲーションを使用します。岐阜県下ではナビゲーションが使用できる施設はごく限られています。岐阜大学では最新の機器を導入しており、ナビゲーションのもとに安全に手術を行います。

最新ナビゲーションを使用した脊椎手術
幅4mmの骨に正確にスクリューが刺入されている(写真は頚椎)

岐阜県広域にわたり脊椎脊髄外科医が出張し外来をしています

岐阜県の広域にわたり脊椎脊髄外科医が出張し定期的に外来を行っています。岐阜県は面積が広く、地方には長距離の移動が困難な、高齢の患者さんが多くおられます。飛騨地区(高山赤十字病院・下呂温泉病院)、奥美濃地区(郡上市民病院・鷲見病院)、県の西端の地区(国保関ヶ原診療所)などの拠点医療機関で定期的な診療を行っています。慢性疾患の患者さんは適切な医療機関で手術を行います。緊急を要する患者さんは岐阜大学高次救命センターと連携をとり、ドクターヘリなどで大学病院に搬送を行います。

岐阜県広域にわたり脊椎脊髄外科医が出張し外来をしています

脊椎脊髄疾患の治療の実際

頚髄症(手のしびれ、歩行障害)に対する治療

手がしびれたり、動きが悪くなったりする場合は、首の脊髄が障害されている可能性があります(頚髄症;けいずいしょう)。頚髄症のうち、症状が重度の場合は手術を行うことがあります。主に、首の後ろを切開する後方法(図1)、前を切開する前方法があります。その人のご病状に合わせて最適な治療を選択しています。

腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症(腰痛や下肢の痛みしびれ)の治療

腰痛や下肢の痛みしびれをおこす疾患、すなはち 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症等などの腰椎変性疾患は、まず保存的治療(薬、ブロックなど)をしっかりと行います。症状の強い症例、保存的治療を行っても生活に支障となるような症状が残る患者さんに対しては、手術治療を考慮します。もし手術となった場合も、できる限り負担の少ない術式を考慮し、体にやさしい治療を心がけています(図2)。

脊髄腫瘍

脊髄腫瘍(せきずいしゅよう;髄外腫瘍、髄内腫瘍)については、岐阜県内外の施設よりご紹介をいただき、多くの症例の治療を行っています。腫瘍の摘出手術(図3)は安全第一をモットーに十分な説明を聞いていただいてから行います。とは言っても、脊髄の手術はそれなりの危険を伴うものです。難易度が高く、手術によって足の麻痺が悪化することもあります。われわれは脊髄誘発電位モニタリング、および顕微鏡(マイクロ手術)、術前の手術シミュレーションを駆使して、神経に対して安全に、合併症を起こさないように最善を尽くします。また、症例によっては、放射線治療・化学療法を含めた集学的治療を行い、より有効な治療を目指しております。

上位頚椎病変

関節リウマチなどによる上位頚椎の不安定性・脊髄圧迫に対して、十分な術前計画のもと後頭頚椎固定術や頚椎固定術をおこなっています(図4)。重要な血管や神経が近くに存在していますが、安全で丁寧な手術を心掛けており良好な成績を得られています。

図4.環軸椎亜脱臼に対する後方固定術
図4.環軸椎亜脱臼に対する後方固定術

後縦靭帯骨化症

頚椎、胸椎の後縦靭帯骨化症に対し、筋力低下や歩行障害を来した症状の強い症例に対しては手術治療を行っております。特に、難易度が高いとされる胸椎後縦靭帯骨化症は岐阜県内外より多くの症例をご紹介いただき、慎重に手術を行っております。術前の手術シミュレーションを十分行い(図5)、安全に、合併症を起こさないよう最善を尽くしています。

図5.靭帯骨化症に対する骨化巣切除術(術前評価と術後画像)
図4.医療画像解析ソフトを用いて、骨化病変を術前に詳細に把握しておきます。
医療画像解析ソフトを用いて、骨化病変を術前に詳細に把握しておきます。

脊柱側弯症

脊柱側弯症は小児から高齢者に至るまで、岐阜県内外より多くの症例をご紹介いただいております。前方矯正固定術、後方矯正固定術(図6)の両者に習熟し、病態によって、いかに矯正効果を得るか・いかに固定範囲を少なくすることができるか・いかに体への負担を少なくするかを検討し、使い分けて効果を上げております。

変性後側弯症

近年、脊椎前方手術(側方手術)が見直されています。最近おこなっているOLIF、 XLIF(お腹の横を切開する腰椎側方進入による固定手術)は、特殊な機器を使用することで体の負担を少なくしつつ矯正固定を行うことができます(図7)。当院でも最新の技術を取り入れており、患者さんの病状にあわせてベストな方法を選択します。

骨軟部腫瘍

概要

骨軟部腫瘍こつなんぶしゅようは骨や筋肉、脂肪、神経、血管などにできる腫瘍です。体中のどこにでも発生し、痛みもないことが多く、気が付いた時にはかなり大きくなっていることもよくあります。非常にまれな病気であるため、その診断、治療に当たっては、高度な知識と豊富な経験が必要とされます。私ども岐阜大学整形外科骨軟部腫瘍班は1968年に発足して以来50年を超える歴史があり、一貫して骨軟部腫瘍の治療、研究に取り組んで参りました。液体窒素処理骨えきたいちっそしょりこつによる生物学的再建せいぶつがくてきさいけんや、ナビゲーションや3Dプリンターによる腫瘍の模型を用いた、より正確で精密な手術など、患者さんのニーズに合わせた幅広い治療を提供できるよう心がけております。

悪性骨腫瘍

悪性骨腫瘍は骨にできる悪性腫瘍であり、1年間に10万人当たり0.5人程度の割合で発生するまれな腫瘍です。その中でも最も多いのは骨肉腫で、治療は手術および、その前後に抗がん剤治療(化学療法かがくりょうほう)を行います。手術はほとんどの患者さんが切断ではなく、腫瘍のある手足を残す手術(患肢温存手術かんしおんぞんしゅじゅつ)を行っており、腫瘍を切除した後に生じた骨の欠損に対しては、可能な限り自分の骨を液体窒素などで処理して、腫瘍を死滅させた後に再利用する手術(生物学的再建せいぶつがくてきさいけん)を行っております。また、近年では、手術の前に3Dプリンターを用いて実際の腫瘍の模型を作成することで、腫瘍の実際のサイズや、腫瘍のある場所、周りの組織との関連性などを十分に検討し、より安全で正確な手術が行えるようにしています。骨肉腫以外の悪性骨腫瘍はさらにまれですが、腫瘍の種類に応じた、適切な治療を行っております。

右大腿骨骨肉腫に対する化学療法かがくりょうほう

腫瘍は神経血管を巻き込んでおりましたが、手術前に化学療法を行うことによって腫瘍は著明に縮小(写真右)し、患肢温存手術かんしおんぞんしゅじゅつが可能となりました。

脛骨けいこつ(すねの骨)骨肉腫に対する液体窒素処理骨えきたいちっそしょりこつを用いた生物学的再建せいぶつがくてきさいけん

腫瘍を一旦切除し、液体窒素で腫瘍細胞を死滅させた後に、元の位置に戻してプレート固定を行いました。

悪性軟部腫瘍

悪性軟部腫瘍は1年間に10万人当たり2人程度に発生するまれな腫瘍であり、全身のどこにでも発生し、その種類も多いことから、正確な診断はもとより、その治療は高度な専門的知識を必要とします。治療は手術が最も重要で、周囲の正常な組織ごと腫瘍を切除する、広範切除こうはんせつじょを行います。また、体の深いところにできた、サイズが大きく悪性度の高い腫瘍に対しては、抗がん剤治療も併用します。手術では腫瘍を完全に取りきることが最も大切なため、術前にはCT、MRIをはじめとする精密検査を十分に行い、適切な切除の範囲を計画します。重要な神経、血管が腫瘍に接している場合は、手術中に腫瘍を飛び散らせることなく、安全にその温存が可能かどうか判断しています。(In-situ preparation、ISP法)

左大腿悪性軟部腫瘍に対するISP法

腫瘍は神経に接していたため(写真左)、神経をつなげたまま腫瘍を持ち上げてその下にビニールシートを敷き(写真中)、腫瘍細胞が飛び散ることを予防したうえで、神経を腫瘍よりはがして切除しました(写真右)。神経内には腫瘍は及んでおらず、神経を温存することができました。

良性骨腫瘍

良性骨腫瘍は痛みなどの自覚症状がない場合、多くの患者さんには経過観察を行います。症状があったり、腫瘍のために骨が弱くなり骨折のおそれがある場合や、すでに骨折してしまった場合は手術を行います。私どもは良性骨腫瘍に対して、患者さんの負担が少ない、低侵襲ていしんしゅうな手術を心がけております。また、良性であっても再発を来しやすい腫瘍に対しては、再発しないように十分な切除を行い、かつ、術後機能が最大限に残せるような手術を計画します。

手首の骨(橈骨遠位端とうこつえんいたん)に発生した骨巨細胞種こつぎょさいぼうしゅに対する手術

非常に再発を来たしやすい腫瘍であるため、病巣の切除を行い、血管柄付き腓骨けっかんへいつきひこつを移植しました。

多発性外骨腫たはつせいがいこつしゅに対する手術

腫瘍が大きく膝の屈伸で痛みを感じるようになったため、切除を行いました。術後痛みは消失しました。

良性軟部腫瘍

良性軟部腫瘍も自覚症状がない場合は手術を行わず、サイズの変化を外来で見ていくことになりますが、痛みなどの症状がある場合や、大きくなる場合などには手術を行うことがあります。その場合もできるだけ低侵襲な手術を心がけております。

前腕部神経鞘腫しんけいしょうしゅに対する核出術かくしゅじゅつ

神経のほとんどを残して、腫瘍成分のみを切除します。

がんの骨転移

日本人の2人に1人が生涯でがんになるといわれており、また、がんの治療法が進歩したことにより、がんを持ったまま長期間、お元気で過ごされる患者さんが増えてきました。がんは骨に転移することがあり、骨転移こつてんいと呼ばれます。骨転移は全身のどの骨にも発生し、様々な症状を引き起こしますが、特に骨折を起こした場合(病的骨折びょうてきこっせつといいます)、患者さんの生活の質を著しく低下させてしまいます。骨転移の治療は痛み止めや放射線治療、骨の破壊を食い止める薬物療法などがありますが、すでに骨折した場合や、今にも骨折をしそうな場合は手術が必要となります。手術法の選択には、もともとのがんの種類や行われている治療、全身の状態、どの骨に腫瘍があるか、などさまざまなことを考慮に入れて決定する必要があり、また術後の適切なリハビリも必要になります。我々は、患者さんごとに最も適した治療法を提示し、患者さんの生活の質が最大限、保たれることを目標に診療にあたっております。

腎がんの太ももの骨(大腿骨だいたいこつ)への転移に対する人工関節による手術

前腎がんの太ももの骨(大腿骨だいたいこつ)への転移に対して人工関節による手術を行い、患者さんは歩行が可能となりました。

手の外科

概要

手外科とは手指だけでなく、肘を含めた上肢全体の機能再建をおこなう整形外科の専門領域です。手の中には、運動器外科に関するあらゆる組織(関節・神経・筋肉・腱)が精緻な構造で存在しており、手術治療には手術用拡大鏡(ルーペ)や手術用顕微鏡を用いた非常に細かい操作(マイクロサージャリー)が必要になります。骨折や腱の断裂等の外傷や末梢神経の圧迫・障害による麻痺、変形性関節症や関節リウマチに伴う肘から手指までの関節障害や変形、先天異常等が主な対象疾患となります。また手指切断など一度、人体から離れ落ちた部分を元にもどすことや、重度外傷や悪性腫瘍切除術によって生じた組織欠損・機能障害に対して、マイクロサージャリー技術を用いて自家組織を移植することによる機能再建手術も行っています。

対象疾患と診療内容

1.上肢の外傷・外傷後後遺障害

骨折・脱臼、腱断裂、外傷性切断等の新鮮外傷に対する各種手術に加え、変形治癒、拘縮等の外傷後の機能障害に対して骨切り、関節授動、腱剥離・腱移植術などの二次的な再建手術を行っています。

2.絞扼性神経障害、末梢神経障害による上肢麻痺

代表的な絞扼性神経障害である手根管症候群や肘部管症候群に対して神経に対する処置(鏡視下開放・剥離術)とともに重度例においては腱移行術よる機能再建術を追加しています。また外傷(腕神経叢損傷)、その他の末梢神経障害にともなう上肢の麻痺に対しては、交差神経移行術、腱移行・組織移植術などによる機能再建を行っています。

3.変性疾患に伴う上肢機能障害

変形性関節症や関節リウマチ等に伴う肘・手・指節間関節の障害や変形、また腱の皮下断裂に対して関節形成・固定術、人工関節置換術、腱移行・移植術などによる機能再建を行なっています。

4.手の先天異常

母指多指症、合指症、裂手症、斜指症等の先天異常に対して各種形成手術や矯正手術を行なっています。

5.外傷・悪性腫瘍切除に伴う組織欠損

軟部組織欠損をともなう四肢外傷や悪性腫瘍広範切除後に生じた骨・軟部組織欠損に対して、健常部位から採取した組織(皮弁)をマイクサージャリー技術を用いて欠損部に移植する再建手術をおこなっています。

足の外科

概要

1950年代より生活様式の欧風化が進むにつれ広く靴が着用されるようになり、外反母趾をはじめとする足の疾患も増加しています。足は、人体の中で常に地面と接する部位となるため、足の障害は日常生活における『立つ』『歩く』といった基本的な動作の障害の原因となり、足趾の変形は整容面での『悩み』につながります。『足の外科』外来では、足の障害に対しての保存的治療および手術治療を行っています。
足部疾患の多くは、装具(足底挿板、サポーターなど)・内服薬・注射・リハビリテーションによる保存的治療による症状改善を図ります。これらの保存的治療を十分行ったにも関わらず、症状が残存あるいは増悪した場合に手術治療を行います。

対象疾患と診療内容

外反母趾

外反母趾は足部疾患の中で最も多いものの一つになります。変形が中等度以上(外反母趾角30°以上)で保存的治療が無効であった場合が手術適応になります。

中足骨楔状回旋骨きり術
中足骨楔状回旋骨切り術
手術前外観
中足骨楔状回旋骨切り術
手術前X線像
中足骨楔状回旋骨切り術
手術後外観
中足骨楔状回旋骨切り術
手術後X線像

強剛母趾

母趾MTP関節(母趾付け根の関節)の変性に伴い、特に関節背屈(踏み返し)制限と疼痛が強い場合に手術適応になります。

関節唇切除術
図4.医療画像解析ソフトを用いて、骨化病変を術前に詳細に把握しておきます。
手術前X線像
手術前CT
手術後CT
中足骨楔状回旋骨きり術
関節唇切除術
関節唇切除術

鉤爪趾 (claw toe)

外側足趾(第2〜5趾)に起きる変形で、外反母趾や関節リウマチに合併することが多く、遷延する有痛性胼胝や矯正位保持困難の場合に手術を検討します。

中足骨斜め短縮骨きり術
中足骨斜め短縮骨切り術
手術前外観
中足骨斜め短縮骨切り術
手術前X線像
中足骨斜め短縮骨切り術
手術後X線像
中足骨斜め短縮骨切り術
術後6ヵ月X線像

変形性足関節症、リウマチ性足関節症

変性が進行期後半~末期であり、疼痛による歩行困難が改善しない場合に手術を検討します。手術前に罹患関節範囲を画像検査やブロック注射で確認し、関節固定範囲を決定します。

足関節(手術前X線像)固定術
足関節(距腿関節)固定術
手術前X線像
足関節(手術前X線像)固定術
手術後X線像
足関節+距骨下関節固定術
足関節+距骨下関節固定術
手術前X線像

距骨壊死

骨折、ステロイド投与、アルコール常飲に関連する、あるいは原因がはっきりしない(特発性)骨壊死を起こします。距骨の骨折や圧壊が認められた場合に、手術を検討します。

距骨体部切除を併用した足関節固定術
距骨体部切除を併用した足関節固定術
手術前X線像
距骨体部切除を併用した足関節固定術
手術後X線像

過剰骨障害

発生学的に余剰物あるいは過剰物である過剰骨が原因であり、保存的治療で改善しない場合に手術治療を検討します。

痙性尖足

脳性麻痺や脊髄損傷により起きる痙性麻痺であり、固縮が著しく保存的治療での改善が見込めない場合に手術を検討します。

アキレス腱延長術
アキレス腱延長術
手術前

関節リウマチ

当外来での診療対象疾患一覧

  • 関節リウマチ、関節リウマチによる足部変形
  • 脊椎関節炎:強直性脊椎炎、乾癬性関節炎
  • 掌蹠膿疱症性骨関節炎、SAPHO症候群
  • リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群

概要

当外来では、関節リウマチと脊椎関節炎(強直性脊椎炎・乾癬性関節炎等)を中心に、薬物治療および手術治療を行なっています。
関節リウマチは『全身性自己免疫疾患;本来ウィルスや細菌から自分を守るための免疫が自分自身を攻撃してしまう病気』の一つであるとともに、『リウマチ性疾患;運動器(骨・軟骨・関節・筋・腱・靭帯・神経)が障害され痛みや機能障害をきたす病気の総称』の一つでもあるため、これらに含まれる疾患の鑑別も行なっています。
関節リウマチは、炎症が続くことで関節の軟骨や骨が破壊されていき(関節破壊)、関節の変形を引き起こします。関節破壊が進行するに従い機能障害も進行し、社会生活(就労、家事、育児等)のみならず日常生活も大きく障害されていきます。
破壊された関節は、薬物治療で元のきれいな関節に戻ることはありません。よって、関節リウマチは早期に発見・診断し、治療を開始する必要があります。残念ながら関節破壊が進行し、このために起きた機能障害に対しては、薬物治療だけではなく手術治療も併用します。
関節リウマチの診断は、臨床症状・局所(特に関節)所見・血液検査・画像検査(レントゲン撮影・超音波検査・MRI等)を組み合わせて行います。また、治療期間中も定期的に関節所見・血液検査・画像検査を行うことで、常に治療の適正化や副作用の発生に注意しながら診療を行います。
関節リウマチは怪我や風邪のように治癒するというわけにはいきませんが、現在は『寛解;治療を継続することで病気が落ち着いている状態』を目指すことが可能となりました。これは、適切な抗リウマチ治療が行われれば、関節リウマチではない方と全く変わらない生活ができるようになる、ということです。
WoCBA (Women of Child-Bearing Age:妊娠出産育児年齢の女性)の抗リウマチ治療においては、妊娠・出産・授乳・育児期間を考慮して、治療計画を組み立てていきます。
また、近年は超高齢社会となったため、高齢(65歳以上)・超高齢(75歳以上)発症の関節リウマチが増加しています。高齢発症関節リウマチでは診断が遅れたり、診断されても併存疾患のために治療薬の選択や用量調整が難しいことがあります。しかし、治療が不十分であったり遅れたりすることで関節破壊が進行してしまうため、より厳密な診療が必要となります。

薬物治療

関節リウマチ

当外来で使用可能な抗リウマチ薬一覧
抗リウマチ治療薬 内服(低分子化合物)
細胞内で作用
注射(タンパク製剤)
細胞外で作用
免疫調整薬 Salazosulfapyridine (SASP)
  • アザルフィジン
Bucillamine (BUC)
  • リマチル
Iguratimod (IGU)
  • ケアラム
免疫抑制薬 Methotrexate (MTX)
  • リウマトレックス
Tacrolimus (TAC)
  • プログラフ
Mizoribine (MZR)
  • ブレディニン
Leflunomide (LEF)
  • アラバ
抗TNF-α抗体製剤 Infliximab (IFX)
  • レミケード
Adalimumab (ADA)
  • ヒュミラ
Golimumab (GLM)
  • シンポニー
Certolizumab-pegol (CZP)
  • シムジア
Etanercept (ETN)
  • エンブレル
JAK inhibitor Tofacitinib (TOFA)
  • ゼルヤンツ
Baricitinib (BARI)
  • オルミエント
Peficitinib (PEFI)
  • スマイラフ
Upadacitinib (UPA)
  • リンヴォック
Filgotinib (FIL)
  • ジセレカ
抗IL-6受容体抗体製剤 Tocilizumab (TCZ)
  • アクテムラ
Sarilumab (SRL)
  • ケブザラ
T細胞共刺激調整剤 Abatacept (ABT)
  • オレンシア

メトトレキサート(MTX)を中心とした内服治療を主体に行いますが、充分な疾患活動性コントロールが得られない場合は、炎症を引き起こす物質であるサイトカイン(TNF-α、IL-6)や炎症を引き起こす細胞(T細胞)を抑制する作用をもつ生物学的製剤(注射薬)の使用も検討します。
また、内服薬でも生物学的製剤と同等の効果を有するJAK阻害薬の使用を検討することもあります。
抗リウマチ薬には、一般的な副作用と各薬剤に特徴的な副作用があります。関節リウマチの疾患活動性を把握するとともに、これらの副作用を極力予防する、また、副作用が出現した際には遅滞なく対応することで重症化を抑制するために、治療開始前はもちろんのこと治療期間中も定期的に検査を行います。

強直性脊椎炎

強直性脊椎炎の治療には、非ステロイド性抗炎症鎮痛薬(NSAID)・抗TNF-α阻害薬を使用しています。
強直性脊椎炎は特定疾患治療研究事業に申請することで、補助が受けられる場合があります。
特定疾患治療研究事業とは、保険診療において患者さんの治療費の自己負担の一部を国と都道府県が公費負担として助成する制度です。
詳しくは難病情報センター https://nanbyou.or.jp を参照ください。

乾癬性関節炎

乾癬性関節炎の治療では当院皮膚科との院内連携を行なっており、定期的に合同カンファレンスも行っています。関節・脊椎症状と皮膚・爪症状の状態に応じて、当外来では主に非ステロイド性抗炎症鎮痛薬(NSAID)・メトトレキサート(MTX)・抗TNF-α阻害薬の導入や調整を担当し、光線治療・PDE4阻害薬・非抗TNF-α阻害薬(抗IL-17阻害薬・抗IL-23阻害薬等)の導入や調整は皮膚科で担当しています。

手術治療

関節リウマチによる足部変形

当科では、関節リウマチによる前足部変形に対して、従来行われていた第lMTP関節固定術と第 2〜5中足骨頭切除による切除関節形成術を組み合わせた足趾形成術も行なっております(下図)が、

足趾形成術
足趾形成術

抗リウマチ治療により、疾患活動性が落ち着いている場合や足趾関節の破壊が高度でなければ、可能な限り関節温存型の足趾形成術を行なっています(下図)。

足趾形成術
関節温存型の足趾形成術

足趾関節を温存することで、足部の踏み返し運動の改善が期待できるため、歩容の改善も期待できます。また、中足骨頭を残す際に骨頭の配列も矯正するため、足底部の有痛性胼胝の自然軽快も期待できます(下図)。

スポーツ整形

スポーツ整形外科は、障害・外傷の治療と予防が重要な役割です。障害の多くは不適切なコンディショニングから起こっています、まず治療は個々の選手の身体状態を把握することから始めております。手術療法においては内視鏡を用いた低侵襲な治療を積極的に行っております。 予防活動として、我々は地域スポーツ医と協力して超音波を用いた検診活動や、岐阜のウィンターシーズンに多いスノーボード外傷の疫学的調査を行い障害・外傷予防への活動を行っています。

野球肘

成長期の投球障害は主に肘内側(小指側)、外側部(親指側)、後方に障害を認めます。特に外側部では小頭離断性骨軟骨炎から、軟骨損傷を来し重篤な障害となることがあります。これら障害は、まだ骨軟骨の成長過程における小中学生に多く発生し、過度の投球や体の硬さによるコンディショニング不良が原因で発生します。我々は詳細な機能診断により主に理学療法や適切な安静指導による改善を目指しています。手術が必要な症例においては関節鏡視下クリーニング手術や、骨軟骨柱移植術を行います。

野球肘
保存療法例

関節鏡視下クリーニング手術

内視鏡を用いて遊離体摘出・損傷軟骨部のクリーニング

骨軟骨柱移植術

膝非荷重部から径6㎜の骨軟骨柱を採取し肘軟骨欠損部に移植

野球検診・超音波検診

成長期の投球障害は早期発見をすることで病状を悪化させる事を予防し、更には適切な保存的治療にて骨軟骨病変を治癒させる機会を得ることができます。我々は地域のスポーツ医の先生と協力し超音波を用いた検診活動を行っています。

PRP(ピーアールピー)治療

難治性筋・腱・靭帯損傷(テニス肘・ゴルフ肘や肘内側側副靭帯損傷等)に対する上記治療を行っています。PRPとは、Platelet-Rich Plasmaを略した名称です。日本語では多血小板血漿と呼ばれていて、血小板の濃縮液を活性化したものを指しています。このPRPに含まれる成長因子の力を利用して、人が本来持っている治癒能力や組織修復能力・再生能力を最大限に引き出す治療です。PRPは患者さん自身の血液から作成します。 外来で患者さんの血液を26~52ml採取して遠心分離をかけPRPを作成します。出来あがったPRPは、エコーを見ながら損傷部位を確認し注射していきます。 この治療は保険が使用できませんので、自費診療となります。担当医とPRP治療の適応があるか相談いただき行います。

PRP(ピーアールピー)治療
患者さんの血液を
約26mL~52mL取ります。
PRP(ピーアールピー)治療
血液を遠心分離機にかけ、
PRPを作製します。
PRP(ピーアールピー)治療
PRPを患部に注射します。

リハビリテーション

概要

リハビリテーションとは「障害の軽減」と「健全な機能・能力の向上」の二つの努力の結果、「人生の質」( quality of life ; QOL )の向上をもたらすものとされています。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー等多職種の力によってチームアプローチをしながら患者様のサポートを行います。当院では救急医療に応えるべく、 ICU 、 ACC はじめ、病棟での訓練も積極的に実施し、病棟入院患者から外来患者まで対象疾患は全科に渡り、小児から高齢者まで多様です。

運動器のリハビリテーション

人工股関節置換術、人工膝関節置換術、各種骨切術、半月板や靭帯再建等の術後訓練をクリニカルパスに則り実施しています。関節可動域訓練、筋力増強訓練、日常生活動作訓練が主ですが、ボール、セラバンド、重錘ベルト、滑車訓練器、固定自転車こぎ、平行棒など使用しての自主訓練も指導しています。また、痛みに対しても選択的筋伸張法、関節モビリゼーション、物理療法もとりいれ、スポーツ障害の患者も対象にしています。運動機能に応じて理論に基づいた運動解析からリハビリテーションをすすめます。

脊髄・脊髄手術後のリハビリテーション

脊椎固定術、脊髄除圧術、側彎症に代表される脊柱変形の術後等に対し、病棟訓練から開始しています。脊柱に負担のかかる動作、車椅子の操作は原則行わず、術後脊柱に負担のかからないよう配慮しています。ハローベスト装具装着の状態でも起立台訓練を初期から開始し、平行棒内歩行、歩行器による歩行、杖歩行、独歩へと段階的に歩行訓練を実施しています。

手の外科リハビリテーション

作業療法というのは、全体の治療の中の重要な要素の 1 つです。当院の作業療法では、主に手の外科の方を対象とし、その他にも脳疾患や神経疾患の方も対象としています。手というのは、日常生活の上でも非常に大事な器官であり、より繊細な動き・感覚が必要とされ、わずかな障害でも不便さを感じることとなる。そのため手の外科の作業療法では、術後または受傷後、早期からの可動域訓練や筋力増強訓練、感覚訓練、自主訓練の指導、さらに良肢位保持・機能改善を目的とした装具作製などにより、手の機能の再獲得を目指している。また装具の作製を行い、疾患にあった装具をリハビリの進行に応じて、作りかえることで機能を高めている。

脳卒中・神経疾患のリハビリテーション

脳卒中(脳出血、脳血栓、脳塞栓)、脳腫瘍、脳炎後の患者に対し、急性期より訓練を開始しています。体位変換、拘縮予防のための他動運動、自助具の指導に始まり、下肢筋力増強訓練、日常生活動作訓練、歩行訓練、嚥下・言語訓練を実施し、トータル的な機能の拡大を目指します。また特殊な神経疾患に対しても進行の緩和をはかるようリハビリテーションを積極的に行っています。

呼吸器のリハビリテーション

呼吸器の専門理学療法士による呼吸機能訓練を行います。疾患の呼吸障害の種類に応じてすすめ、特に全身麻酔術前の呼吸機能訓練も多くの科から依頼されています。

教育

大学病院はリハビリテーション医をめざす専攻医の基幹病院として、教育を行います。
リハビリテーション科は基本領域でもあり、専攻医の数がまだまだ岐阜では少ないため、今後リハビリテーション科医を目指す若い力に期待しています。

研究

研究部門ではリハビリテーション部医師と各療法士により、動作解析(VICON)・足圧分布・運動機能解析・超音波診断装置・解剖など様々な部門で進めています。また工学部と連携した医療工学リハビリテーション部門の研究で、歩行支援装置や、運動支援ロボット、リハビリテーション支援装置などの開発をしています。

障害者のスポーツ

障害者スポーツにも力を入れており、パラリンピックをはじめ、世界選手権や国内大会の帯同などを行い、選手の健康機能管理を行います。機能改善のためのリハビリテーションやクラス分けの手伝いなど日本の障害者のスポーツに貢献できればと考えています。