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肩や肘などを痛めたプロ野球選手の治療としても
注目されている「PRP治療」。
そのメカニズムやメリットについて寺林先生が詳しく解説します。
病気やケガで機能を失った組織を再生させる治療法です。
再生医療とは、病気やケガで機能を失った組織を修復、再生する治療のことです。iPS細胞の研究などが有名ですが、従来の治療法では十分な効果が望めなかった関節の痛みやケガを治す新たな選択肢として期待されています。2013年に制定された「再生医療法」により、リスクの度合いなどに応じて3種類に分けられることになり、私たちが取り組んでいる、難治性筋・腱・靭帯損傷に対するPRP治療は、もともと細胞が持っている機能を利用し、大きなリスクが想定されない治療法として第三種に分類されております。
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患者さん本人の血液を用いて自己治癒力を活性化する治療法です。
PRPとは「Platelet-Rich Plasma」を略した名称です。日本語では「多血小板血漿」と呼ばれ、血小板の濃縮液を活性化したものを指します。血液1㎣あたりに10~40万個含まれる血小板は、血管が損傷した場所に集まって止血しますが、この時、大量の成長因子を放出します。この成長因子には、組織の修復を開始させる働きがあることから、これをうまく利用し、人間が持つ治癒能力を最大限に引き出すのがPRP治療です。患者さん自身の血液のみを使うため、免疫反応が起きにくいというメリットがあります。約30㏄の血液を採取して遠心分離器にかけ、血小板が濃縮された部分を取り出して患部に注射します。注射後は1~2週間ほど炎症による痛みが生じますが、その後は徐々に痛みも消え、症状が改善していきます。3~6か月ほどかけて組織が修復していき、スポーツ選手であれば半年ほどで競技への復帰が見えてきます。
専用のキットで患者本人の血液から濃縮された血小板を採取。患部に注入した血小板が放出する成長因子の働きにより、組織が修復していく。
通常の治療でなかなか治りにくかった、靭帯損傷や筋・腱付着部の痛みに対しての選択肢の一つとして普及が進んでいる。
通常の治療でなかなか治りにくかった、靭帯損傷や筋・腱付着部の痛みに対しての選択肢の一つとして普及が進んでいる。
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靭帯・筋腱付着部炎でお悩みの方は整形外科外来でご相談ください。
当院では2021年12月からPRP治療を開始しました。主な目的は、保存的治療に抵抗し、手術を回避したいと考えているスポーツ選手に、別の選択肢を提供することです。スポーツ選手が靭帯損傷などで手術した場合、回復までにかなりの時間を要します。例えば野球選手の肘の靭帯損傷を手術した場合、復帰までに1年以上を要してしまう事があります。そうなれば選手生命に大きく影響し、復帰を待たずして引退を余儀なくされるケースも出てくるでしょう。PRP治療は、早期の復帰を目指す選手のためのもう一つの選択肢だと言えます。ただ、今後はアスリートに限定せず、一般の患者さん(例えば肘の外側が痛くなる難治性のテニス肘など)にも適用を広げていきたいと思います。現時点では健康保険の適用がないため、患者さんが実費を全額負担する自由診療となりますが、難治性の靭帯・筋腱付着部炎でお悩みの方にはとても有効な治療法です。ご興味のある方はぜひ整形外科外来でご相談ください。