調剤や医薬品の供給などにより、病気の治療や健康増進に寄与する薬剤師。
その役割や、担う仕事は、薬局やドラッグストア、保健所など働く場所によって変化します。
地域医療の最後の砦となる岐阜大学医学部附属病院において、
病院薬剤師は何を考え、どのような仕事をしているのか?
現場よりリアルな声をお届けします。
病棟や外来に出て積極的に患者さんと関わり、
チーム医療の担い手として活躍しています。
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薬剤師長
鈴木 昭夫
薬剤師は、薬の専門家として薬物治療に深く関わります。例えば、病棟や外来では医師と一緒に処方設計をし、年齢などに応じた適切な薬物を選択できるように支援しています。また、病棟では患者さんの服薬をサポートし、適正な使用を促します。さらに、薬を服用している患者さんの治療効果や副作用をチェックし、その情報を医師や看護師と共有しながら対策を講じるのも私たちの大きな役目の一つです。
当院の薬剤部は、すべての病棟に薬剤師を配置し、患者さんに直接関わっています。600床規模の国立大学病院薬剤部の「薬剤管理指導算定件数(薬剤師が入院患者さんの指導を行う件数)」は全国1位を誇ります。患者さんが安心・安全に薬物治療を受けられるだけでなく、治療後の苦痛などを少しでも軽減し、医師が決めた治療がしっかりと完遂できるよう、薬剤師が責任を持って患者さんを見守っています。また、薬剤師には、医師や看護師と同じように「認定・専門薬剤師」というものが存在します。「がん」「感染」「緩和」など、各分野の高度な知識と経験を兼ね備えた薬剤師が取得できる資格で、当院には全国の国立大学病院で最も多い6名のがん専門薬剤師が在籍しています。より高度な知識を身に付けることで、大学病院ならではの専門的な治療に幅広く貢献しているのです。
薬剤師の役割を端的に表すものとして、昔から「薬あるところに薬剤師あり」という言葉がよく用いられますが、私はそこからさらに踏み込んで「患者あるところに薬剤師あり」であるべきだと考えています。今年から稼働を始める新たな手術棟にも薬剤師が常駐し、麻酔の調整、術前・術後のケアなどに深く関わっていく考えです。また、地域の薬局の先生との連携、いわゆる「薬薬連携」にもより一層力を入れていきます。週1回の勉強会のほか、月1回のミーティングにより薬物治療の問題を話し合う取り組みなども行いながら、地域全体の底上げを図り、患者さんがよりよい薬物治療を受けられる体制を整えていきます。
薬剤部:加藤寛子/西田承平
入院センターや病棟で患者さんと直接面談を行い、
その情報を医師や看護師と共有して治療に役立てています。
近年、病院薬剤師の業務は多岐に渡っており、病棟や外来といった患者さんにより近い場所で仕事をする場面が増えています。
入院センターでは、入院が決定した患者さんに事前に必要な準備をお伝えするのと同時に、入院後の治療をスムーズに行うために必要な患者さんの情報を収集しています。
薬に関するお話を伺う際にはさまざまな情報をお聞きしますので、お薬手帳をご持参いただくとスムーズです。また、お薬手帳をお持ちでない場合には、かかりつけのクリニックや薬局にお願いして薬の情報を提供していただいております。入院センターで収集させていただいた情報は、薬剤師はもちろんのこと医師、看護師等多職種で活用させていただいています。各病棟には担当の薬剤師が2-3名おり、入院される患者さん全員とお話をさせていただいています。普段お使いの薬について再度詳しくお話を伺ったり、治療に使う薬剤の説明や使い方の指導も行っています。また、治療中に生じた副作用の状況も確認させていただき、医師に対して副作用を軽減するための処方の提案等も行っています。治療中に薬剤が変わる場合もあるので、かかりつけ薬局等にはお薬手帳を介して情報提供をしています。
実際にお話をすると、本来飲まないといけないお薬がうまく飲めていない事がわかったり、治療で使っている薬剤の注意点をご存知なかったりすることもしばしばあります。また、医師や看護師には言いづらかった、薬に関する情報がそこで得られる場合もあります。一人一人の患者さんに丁寧にお話を伺い、服薬状況や薬に関する理解度や副作用の状況等、患者さんが抱えている薬に関する問題を解決に導くことが薬剤師の専門性であると思っています。
現在の医療はそれぞれの職種が専門性を活かして、患者さんに対して多職種が関わるチーム医療が求められています。薬剤師が『薬の専門家』として医師の処方を支援する事で、より安心・安全な医療を提供する事ができると考えています。お薬に関するお悩みがあれば是非気軽にご相談ください。
入院前に、アシスタントコンシェルジュ、看護師、薬剤師がそれぞれの観点から面談を実施。関係者と情報共有し、治療やその後のサポートに役立てています。
薬剤部:飯原大稔/廣瀬智恵美
化学療法を受ける全患者さんと面談し、
安心して治療を受けられるように努めています。
化学療法は日々進化を続けており、以前と比べてターゲットを絞り、より高い効果を期待できる抗がん薬が次々と登場しています。ただ、必ずしも副作用が少ないわけではなく、特に分子標的薬については、出やすい有害事象が明確になっているため、これにうまく対処する事が重要です。制吐剤や抗炎症薬などを使って副作用の症状を抑える治療を「支持療法」と言いますが、これを患者さんにきちんと提供することが薬剤師の大きな役目です。当院では、薬剤師が外来で化学療法を受ける全患者さんを対象に、スケジュールや起こりうる副作用をご説明します。また、治療にお越しになるタイミングでも必ず薬剤師が介入します。医師や看護師と副作用の対処方法の打ち合わせを行い、抗がん薬の投与量をどうするべきか、その日の治療を行うべきか否かなどを相談しながら、患者さんが安心して治療を受けられるように努めています。
薬剤部:丹羽隆
耐性菌を生まない適正使用に努め、
目の前の患者さんによりよい治療を提供します。
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耐性菌の出現は世界的な問題になっており、日本でも国を挙げて薬剤耐性対策が進められています。安易に抗菌薬を使用していけば、薬剤耐性菌の出現を誘発し、徐々に効く薬がなくなっていく。そこで、うまく投与することが重要になっているのです。ただ、細菌感染症は、菌が特定される前に重症化することが多く、素早く治療を行う必要があります。そこで私が担当する抗菌薬適正使用支援チーム(AST)では2009年から全国に先駆けて全入院患者を対象とした感染症診療支援体制を整えました。感染症専門医、臨床検査技師と連携し、まだ菌が確定できない段階でも菌の形態などの情報からより良い薬を提案するといった支援をしています。
【抗菌薬とは?】... 古くはペニシリンに代表される細菌感染症の治療に使われる薬のこと。一般的には「抗生物質」と呼ばれることが多いです。近年はほとんど新薬の開発が進んでいないことに加え、従来の抗菌薬に対する薬剤耐性菌が登場しており、世界的に大きな社会問題となっています。
お話を聞いた人・・・
岐阜大学医学部附属病院
岐阜大学医学部附属病院