新病院長インタビュー

Vol.50

2022.06.30

特集

新病院長インタビュー
2022年4月に就任した秋山治彦新病院長に、
岐阜大学医学部附属病院が目指す今後の将来像についてお聞きしました。



安心・安全な医療の提供と同時に、
「メディカルDX」を加速させ、より一層信頼される大学病院へ。

 岐阜大学医学部附属病院は、医師、看護師、メディカルスタッフ、そして事務職員など、2,000人ほどの職員が協力し合い、チーム医療を実践しながら支え合って最高の病院を目指してきました。私は、これまで多くの職員の力で築き上げてきたこの大学病院の風土・文化は、今後も大切に継承していかなければならないと考えています。その上で、岐阜県における地域の中核病院として、岐阜県の患者さんのために全ての病気に対応でき、安全・安心に治療が受けられる大学病院として、より一層信頼していただけるような存在にしていきたい。そのためにも、職員の思いと岐阜県民の皆さんの思いをしっかりと心に刻み込みながら、病院長としての職務に邁進していきたいと思っています。
 当院ではがんセンター、呼吸器センター、循環器センターなど、主要な病気に関するセンターを設立し、診療科の枠を越え、メディカルスタッフ、事務職員も含めた集学的治療ができる体制を構築してきました。今後も、主要な疾患に関するセンターをさらに拡充することで、どんな疾患についても、最先端の医療が受けられる体制を整えていきたいと思います。


 患者さんへの対応という点では、2023年1月から「総合患者サポートセンター」を開設する準備を進めています。これは、いわゆる「ペイシェント・フロー・マネジメント」、入院前から退院後までを見据えた一連のサポートを行うための新たなセンターです。岐阜県下の医療機関では最も広いフロア面積を有し、患者さんに対して個別かつ丁寧な支援を行ったり、手術前の患者さんに解説動画をご覧いただけたりする仕組みづくりを進めています。退院先のサポートについても、総合患者サポートセンターが中心となって、従来以上にきめ細かく対応できる体制を作り上げる計画です。

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 大学病院には、先進医療と臨床研究を推進し、新たな標準治療を創成する役割があります。そこで、産官学で連携しながら、先端医療臨床研究推進センターの機能の充実、トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)の推進などを図り、新たな医療技術や新薬の開発などを積極的に進めていきます。また、当院では、2年前から名古屋大学と連携して「健康医療データ統合研究教育拠点事業」に取り組んでいます。これは、岐阜大学および名古屋大学の医療情報を、研究ベースにおいて相互に利用できるシステムを構築しようとするもの。これにより、新たな医療技術や新薬を作る際、医療情報をすぐに掴むことができ、臨床研究などをより迅速に進めることが可能になります。また、同じ岐阜医療圏にある医療機関とコンソーシアムを作ることで、互いの患者さんの情報を共有できる体制の構築も進めているところです。こうして大規模なデータベースを作り上げることができれば、新たな技術が開発できた際、すぐに臨床試験で試し、よりスピーディーに標準治療として世の中に普及していくことが可能になります。名古屋大学との連携はすでに半年ほど前から始まっていますので、今後はこのデータベースをうまく活用した臨床研究がより一層広がっていくと思います。

 2022年4月に、新たな手術棟が完成しました。以前に比べて手術室が5室増え、そのうち2室がハイブリッド手術室になっています。ハイブリッド手術室には、最新鋭の血管造影設備が備えられており、心臓の血管内治療などにおいて非常に精度が高い手術を実施することができます。また、当院では2台のダヴィンチを保有していますが、新手術棟にはこのダヴィンチによるロボット手術を専用で行うための手術室も新たに設けています。当院では最新鋭のダヴィンチを2台体制で活用できるのが大きな強みです。ロボット支援手術は、当初泌尿器科の手術が中心でしたが、最近では保険適用が徐々に拡大し、産婦人科や消化器外科、呼吸器外科などの手術に対してもロボット支援が広がってきています。そこで、当院ではさまざまな患者さんにロボット手術で対応できる充実した環境を整えました。新手術棟のもう一つの特徴が、面積を拡張した「バイオクリーンルーム」です。空気中の微細なちりも除去できる非常に清浄度の高い手術室のことで、これを従来の1.5倍に広くし、整形外科のロボット支援手術などを安全に行えるようにしています。今後はARやVRなどの最新技術も取り入れながら、低侵襲かつ精密な手術を受けられる環境をさらに拡充させていきます。
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 そのほかにも、先進的な試みとして取り組んでいるのが「再生医療」です。iPS細胞が大きな注目を集めるなど、全国の大学病院でさまざまなプロジェクトが進行する再生医療の分野ですが、岐阜県下ではこれまであまり進んできませんでした。そこで、当院がこの分野に先鞭をつけ、まずは幹細胞の移植などから徐々に取り組んでいこうと準備を進めています。具体的には、患者さんご自身の骨髄から採取した幹細胞を移植して下顎を再建する技術や、患者さんの血液から血小板を濃縮して採取し、スポーツなどで傷めた腱や靭帯などの組織を修復させるPRP療法などに取り組んでいきます。

 内閣府では科学技術政策として「Society5.0」という新しい社会のあり方を提唱しています。これは、今後の日本が目指すべき未来社会の姿として、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」を実現しようとするものです。私たち病院もこうした流れを受け、今後はメディカルデジタルトランスフォーメーションによる「スマートホスピタル」へと進化していく必要があると考えています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは...
IT技術やインフラの発展により、人々の生活がより良いものになること。医療業界においても、AIで医療用画像から情報を収集することで診断をフォローし、医師による見落としリスクの軽減を図るなどの取り組みが期待されています。
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 スマートホスピタルは、医療サービスの向上、医療従事者の業務効率化、患者さんの利便性の向上などを実現するための近未来型の新しい病院の形です。現在では、スマホ決済の導入や電子カルテの音声入力、ウェアラブル端末を用いた患者さんのバイタル情報のモニタリング、医薬品や診断装置の使用状況の把握など、さまざまな技術が新たに開発されています。そして今後は、VRを用いた患者説明や、ロボットを用いたリハビリテーションなども徐々に実現していくでしょう。当院においても、こうした最先端の技術を取り入れながら、次世代を見据えた新たな病院像を目指していきます。2023年1月に電子カルテの更新を行った後には、オンライン診療の充実、パーソナルヘルスレコードシステムの稼働、AI診断などの開発・導入を計画しています。そして今後は、AIモニター装置やAIでの検査機器管理システムの導入、岐阜大学医学教育開発研究センターと協力した学内教育や授業支援ツールの開発などにも積極的に取り組んでいきたいです。

     当院では今後の展望として、5つの大きな計画の枠組みのもと、26の病院経営成長戦略推進プロジェクトを掲げています。特定機能病院として、そして地域医療機関との連携中核病院として、従来のように「医療の最後の砦」として高度急性期医療を提供していくだけでなく、国際的にも地域でも活躍できる人材の育成とそのための教育システムの構築、国際医療センターとして海外研修の推進、外国からの患者さんのサポートの充実などにも力を入れていきます。
 
 2024年には、病院の北側に高速道路のインターチェンジが完成する予定です。岐阜大学は、岐阜市のみならず、岐阜県全域からのアクセスが非常に良くなり(下図参照)、他県からの交通の便も飛躍的に向上します。今後も岐阜市などの近隣病院との連携をさらに強固にしながら、岐阜県全域の県民の方々に安心して受診していただけるように努めていきます。そして、全ての病気の標準治療のみならず、岐阜大学医学部附属病院でしか受けられないような先進医療や治験での医療、さらには最先端機器を用いた治療などを幅広く提供できる病院へとますます発展させていきたいと思います。


岐大病院新体制のキーワード

教育・人材育成

 当院において医療人の育成は大きな使命の一つですが、現在、特に力を入れているのが「リカレント教育」です。卒後の医師の教育について、これまでの医師育成推進センターによる細やかな対応に加えて、内視鏡外科手術トレーニングセンターや現在整備中のカダバートレーニングセンターでのトレーニングを、高速インターネットにつないで遠隔地から見学できる体制づくりを進めています。さらに将来的には、AR、VRの技術を用いることで、当院に足を運ぶことなく最先端の医療技術を習得できる仕組みを構築していく考えです。
     2024年から始まる「医師の働き方改革」に向け、今年2月から新たに勤怠管理システム「Dr.Joy」の運用を開始しました。人材育成の観点からも、医師の勤務体制や当直体制の抜本的な見直しは非常に重要であり、現在、医師の労働時間短縮と合わせて、医師の負担を軽減するための「タスクシフティング」も進めています。外来や病棟へのメディカルクラークの雇用や医科医療事務技能認定試験、ホスピタルコンシェルジュ検定試験などの資格取得のサポートを行うほか、看護師への特定行為研修の支援、臨床工学技士への研修サポート、手術室薬剤師の配置、救急救命士の雇用などを計画しています。
 

研究

 岐阜大学医学部および附属病院では、名古屋大学と連携して「健康医療データ統合研究教育拠点事業」を進めています。この事業により、岐阜大学および名古屋大学の医療情報を、研究ベースにおいて相互に利用で きるシステムが構築されています。
 近年は、大規模データベースの構築とデータ利活用によるさまざまな研究が世界的に展開されており、創薬、臨床試験、地域包括ケア、人材育成、AI開発などのあらゆる分野で、大規模なデータベースが必須となっています。名古屋大学では、愛知県の市町村の医療データベースの統合の試みを進める一方、岐阜大学においても、岐阜医療圏の病院群と連携して岐阜医療圏地域コンソーシアムを立ち上げ、地域一体型の治験や臨床研究の体制づくりを進めています。
    将来的には、東海地方全体の医療情報の一元化や、他地方とのデータベース連携による研究開発、名古屋大学の情報・生命医科学コンボリューションonグローカルアライアンス卓越大学院(CIBoG)との連携によるビッグデータ解析や橋渡し研究の推進なども期待されています。これにより、地域における予防医療、早期発見、リハビリテーションの充実などを図り、地域の皆さんの健康寿命の延伸に貢献します。
 

岐大病院新体制のビジョン

新手術棟の完成を機に、さらに高度な医療体制を拡充。

2022年4月に竣工した新手術棟では、ハイブリッド手術室や手術支援ロボット「ダヴィンチ」などの設備を備え、より幅広く専門的な手術が可能に。
新手術棟特集

2025年に向けての将来ビジョン

当院は、2025年に向けて4つの大きな方針をまとめた「岐阜大学医学部附属病院の将来ビジョン」の実現に向けてさまざまな 取り組みを行っています。


お話を聞いた人・・・
岐阜大学医学部附属病院
    病院長
  1. 秋山 治彦 先生