光学医療診療部

Vol.58

2025.02.28

特集

光学医療診療部



今日の内視鏡医療の最前線に立つ「光学医療診療部」。
高度な診断と治療を提供するだけでなく、研究や教育の拠点として、地域医療の未来を支える重要な役割を担っています。

日本が誇る内視鏡医療、県下トップレベルの実績

     日本での胃カメラ検査の年間件数は、約1,500万件に達しています。これは、国民の10人に1人以上が胃カメラを受けている計算となり、日本が内視鏡を使った診断や治療の分野で世界トップレベルであることを示しています。私たち光学医療診療部は、内視鏡を中心とした専門診療部門として、消化器疾患や呼吸器疾患などに対し高度な診断·治療を提供しています。最新機器を積極的に導入し、これまで難しいとされてきた臓器の検査にも取り組んでいます。しかし、高性能な機器があれば誰にでもできるものではなく、その機器を活用する医師の高度な技術力と経験が不可欠です。
 
 光学医療診療部では、消化器内科や呼吸器内科、小児科など複数の診療科が密に連携し、看護師や臨床工学技師、放射線技師といった多職種が協力することで、質の高い医療をチーム全体で提供しています。内視鏡に対して「苦しそう」「怖い」という不安を抱える患者さんも多いですが、その不安を取り除き、安全で苦痛のない医療を届けることが私たちの使命です。負担の少ない内視鏡治療を通じて患者さんの生活の質を向上させることを目指し、常に最先端の医療を追求しています。


    検査や治療だけでなく研究·教育の拠点として

     光学医療診療部は診療にとどまらず、研究·教育の拠点としても重要な役割を担っています。国内外から若手医師を受け入れ、内視鏡技術を伝えるとともに、最新機器を活用した実習やセミナーを開催しています。近年では、AIを活用した内視鏡診断の研究や、世界的なガイドライン改定に寄与する論文発表など、医学研究の最前線で成果を挙げています。当院の光学医療診療部は、日本が誇る内視鏡技術を世界に発信し、次世代の医療を切り拓いているといっても過言ではありません。質の高い医療を提供する一方で、地域医療の発展と国際的な医療貢献を見据えた取り組みを続けています。


    光学と工学の融合が切り拓く新たな未来

     現在、内視鏡にはAI技術がどんどん取り入れられています。AIは内視鏡画像を解析し、診断をサボートする能力に優れており、画面に映った小さなボリープを検出したり、その種類やがんの可能性を高精度で提示することが可能です。このような技術はすでに保険診療に導入されており、研究も急速に進展しています。AI技術を活用することで、医師の目では見落としがちな微細な病変も正確に検出できるようになり、診断精度が大幅に向上します。これにより検査時間の短縮や治療計画の迅速化も実現可能です。今後も、AIを活用した診断技術のさらなる発展や新しい内視鏡機器の導入に注力するとともに、それらを最大限活用した診療を提供できる医療者の育成にも積極的に取り組んでいきます。そしてそれが、より正確で患者さんの心身に優しい医療の実現につながると期待しています。
 
 
 日本は、内視鏡分野で世界をリードする存在です。世界市場の約8割を占める内視鏡機器は日本製で、その技術力と診断·治療の実績は実に圧倒的です。私たち光学医療診療部も、この日本の内視鏡技術と経験を支える一端を担っています。当院がこれまでに培ってきた実績と、安全で確かな医療を基盤に、診療のみならず研究や教育を通じて、患者さんに最善の医療を提供し続けていきたいと考えています。
     最新の内視鏡設備や診断技術についてお話をしてきましたが、何より私たちが叶えたいのは、安全で苦痛の少ない、そして正しい医療を患者さんに届けることです。そのためには、技術力の向上だけでなく、患者さんに寄り添い、検査後の結果にも誠実に向き合う姿勢が大切です。私たち光学医療診療部は、確かな技術とともに患者さんを支える心を原点に、これからも最善の医療を提供し続けていきます。(部長 清水雅仁)
 



光学医療診療部では、経験豊富な内視鏡専門医たちが活躍しています。
井深貴士先生(消化管領域)、岩下拓司先生(胆膵領域)、柳瀬恒明先生(呼吸器領域)に、それぞれの専門領域での取り組みや最新の医療技術について語っていだきました。




診断が難しい症例にも対応できる体制を構築

    井深: 消化管領域では、がんの早期診断·治療と炎症性腸疾患の診断·治療が主な柱です。身体への負担が少ないがんの切除方法「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」は近年主流となってきていますが、当院での症例数も多く、技術力や信頼が確立されてきたと感じています。
    また、外科と協力して十二指腸の内視鏡合同手術を行ったり、耳鼻科と協力して咽頭や食道入口部の腫瘍に対する内視鏡治療も行うなど、リスクの高い部位にも対応しています。
    診断が難しいとされる小腸疾患に対しても、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡を活用した検査を実施しています。クローン病などで小腸に病変が見られるケースでは、内視鏡診療が非常に重要です。狭窄(※1)が見られる場合には、内視鏡を用いて拡張術を行います。大学病院ならではの高度な機器と専門性を生かして、小腸をふくむ全消化管を観察·評価できるよう体制を整えています。
 

※1 腸管が狭くなった状態


進化を続ける超音波内視鏡の可能性

    岩下: 胆膵領域では、内視鏡の先端に超音波が組み込まれた「超音波内視鏡(EUS)」を活用した診断·治療が飛躍的に進化しています。中でも「EUS-FNA」という検査は、消化管を通して膵臓や胆管を観察し、病変が確認された場合に針を刺して病理検体を採取するものですが、この技術によって診断精度が大幅に向上しています。他にもこの手法を応用した膵臓の囊胞ドレナージ(※2)や胆管閉塞の治療がありますが、これまで外科手術では対応が難しかった症例まで、内視鏡で対応できる範囲が広がっています。
    技術革新のスピードは目覚ましいものがあり、内視鏡そのものや周辺機器の高度化とともに、我々の対応可能な治療の選択肢が増えました。ステントやチューブなどの周辺機器の開発にも積極的に関与し、診療と研究の両面で挑戦を続けています。
 

※2 溜まってしまった膿などの液体を排出させる治療


診断精度向上とゲノム医療への期待

    柳瀬: 呼吸器領域では、主に肺がんなどの胸部腫瘍の診断を行っています。最近では超音波内視鏡を用いることによって、気管支の外側にあるリンパ節などからの検体採取(EBUS-TBNA)も容易に行うことができます。
    特に肺がんのゲノム診断の重要性が高まっており、採取した組織を病理診断医の先生方と毎週チェックして、ゲノム検査に提出できるかの判断や、より良質な検体を得るための振返りを行っています。また小型肺がんの術前マーキング(※3)では、ICタグを留置する方法を県内で唯一当院が実施しています。

    ※3 病変の近くにインクなどで目印をつける技術
 


最新機器と確かな技術で医療の未来を開拓します

井深: 内視鏡治療の進化によって、以前は手術が必要だった症例も、内視鏡で対応できるようになりました。
柳瀬: それによって、診断や治療の方法も変わってきましたよね。今まで不可能だと思われていたことが、可能になりつつあります。
岩下: 最新機器の導入はもちろん大切ですが、それを使いこなせる医療者の技術力の向上も重要です。診療科の垣根を越えて協力しながら強化していきたいところです。
    井深: がんの早期発見や炎症性腸疾患の診断など、大学病院ならではの高い診療水準を生かして、地域医療にも貢献していきたいです。
    柳瀬: 今後も医療技術の高度化をうまく取り入れながら、確実かつ安全な内視鏡診療を続けていきたいと思っています。それが患者さんの満足や負担軽減にもつながると思います。
    岩下: そしてこうした取り組みは、当院だけでなく県全体の医療レベルを引き上げることにもつながります。患者さん一人ひとりに寄り添った診療、身体と心にやさしい治療を、これからも追求していきたいですね。
 



お話を聞いた人・・・
岐阜大学医学部附属病院 光学医療診療部
    部長
  1. 清水 雅仁 教授
  2. (消化器内科)
  3. 井深 貴士 講師
  4. (消化器内科)
  5. 岩下 拓司 講師
  6. (消化器内科)
  7. 柳瀬 恒明 臨床講師
  8. (呼吸器内科)