第7回 病院長のゆかいな仲間たち

イベント
メイン画像

【ジン・アイバンク】臓器提供までをつなぐ橋渡し

病院長×公益財団法人岐阜県ジン・アイバンク協会
岐阜大学医学部附属病院  小倉 真治 病院長
公益財団法人岐阜県ジン・アイバンク協会  上野 牧子 水口 恭子

角膜や腎臓などの移植を啓発、コーディネート

小倉 岐阜県ジン・アイバンク協会は、どのような活動をされていますか。

上野 角膜と腎臓の移植を中心に、臓器移植に関するコーディネートをしたり、臓器移植の意思表示カードの啓発活動をしたり、広報誌を年1回発行しています。

小倉 具体的には、どのような仕事をされていますか。

上野 2016(平成28)年4月、岐阜県の臓器移植コーディネーターの委嘱を受け、臓器提供者と希望する患者さんとの橋渡しをしています。県内には、脳死判定による臓器提供ができる病院が12施設あります。各病院には院内コーディネーターがいて、依頼をいただくと、ご家族に移植の説明をするとともに、公益社団法人日本臓器移植ネットワークで移植を希望して登録されている患者さんとの日程や病院間の調整、搬送経路など、臓器提供までつなぐ橋渡しをしています。岐阜県の場合は、腎臓と角膜の移植に限られていますが、もし、心臓などほかの臓器が提供される場合、日本臓器移植ネットワークのコーディネーターと協力して橋渡しをします。

小倉 移植の状況はいかがですか。

上野 臓器提供の2016年度の移植状況をみると、角膜の移植希望者はなく、提供は9件、移植は13件でした。腎臓の移植希望者は244人いますが、そのうち、提供件数、移植人数ともに0件でした。

小倉 臓器提供の意思表示についてもあらためて教えてください。

水口 臓器提供の意思表示は、意思表示カードのほか、健康保険証、運転免許証、マイナンバーカードの意思表示欄などで示すことができます。
小倉 移植に関して、患者さんも詳しく知っている人は少ないと思います。

岐阜大学病院内に事務所を開設 スピード感が増す

上野 かつては岐阜県庁に事務所がありましたが、2014(平成26)年11月から、岐阜大学医学部附属病院に移転しました。現在は、病院内の2階に事務所があります。

小倉 何人くらいですか。

水口 事務局員は2人で、事務局長を大学病院の総務課長、事務局次長を総務課長補佐に兼任していただいています。小倉病院長も、公益財団に移行する前まで理事に就任していただいていました。

小倉 一般の人からすると、協会のある病院は移植のドナーを出すために置いているのではないかと思う人もいるかもしれませんが、決してそうではないですよね。大学病院に設置した背景には「医療機関の中でも情報が集まりやすい」、「大学病院は一般の病院と異なり、利益追求に結びつかない」、「全県的な視野で見ることができる」ということがあると理解していますが、当院内で活動するようになって、メリットはありますか。

水口 例えば、アイバンクの場合、大学病院の眼科の先生に摘出に行っていただいていて、器材も大学病院内にあります。以前は、県庁から一度、大学病院に行って、そこから器材を準備して先生と一緒にタクシーで連絡のあった病院に向かうという流れでしたので、大幅にスピード感が増して、移植に関しても対応しやすくなったと思います。また、前任の移植コーディネーターは先生とのやりとり、コミュニケーション、看護師さんとのやり取りがやりやすくなったと言っていました。

小倉 一般の方や患者さんにとって、負担が減って、動きやすくなったということは考えられますか。

水口 患者さんも受診のついでに寄られて質問されることも増えましたね。総合受付でも案内をしてくださっていて、事務室の場所がわからなくても、受付から呼ばれて直接、待合まで行って説明することもあります。新規の受付もかつては年に2回でしたが、こちらでは、移植を希望される方はいつでも受付できるようになりました。

小倉 県庁の時と比較してどれくらい増えましたか。

水口 件数としては十数件ですが、それまでは電話相談などで対応することもありましたが、こちらでは、直接いらっしゃって対応することが増えました。

小倉 ほかの病院にかかっている患者さんが相談に来ることもありますか。
上野 登録の更新をするとき、こちらにお越しになりますね。例えば、腎臓の移植を待っていらっしゃる患者さんが、岐阜県全体で年間200人弱います。その方々に、移植する場合、1年に1回の受診が義務付けられています。また、情報の更新に伴い、受診や採血も必要になります。県庁から大学病院まで何度も足を運ぶことがなくなりました。そのほか、移植がかなった後、「元気になりました」とお顔を見せに来てくださったり、サンクスレターを書いてきてくれたり。岐阜大学病院の中に事務室を構えて、非常にありがたいと思っています。

普及啓発活動と移植推進事業を遂行

小倉 普及啓発活動も展開されていますね。

上野 普及啓発活動と移植推進事業を行っています。普及啓発活動では、10月の全国臓器移植普及推進月間を中心に、岐阜県オリジナル意思表示カード入りポケットティッシュなどを配布して、移植医療の正しい理解を深める普及啓発を行いました。岐阜県農業フェスティバルでは、グリーンリボンをはじめ、障がい者マークに関するクイズなどを実施しました。

小倉 移植推進事業はどのような取り組みをされていますか。

上野 県内11の医療機関に臓器移植コーディネーターでとして訪問して、シミュレーション、講演会、委員会、脳死下・心停止下の臓器提供マニュアルの作成や修正などに協力してきました。

小倉 普及啓発活動で、一般の方への理解の浸透はいかがですか。

上野 例えば、イベント会場で呼び掛けていると、「臓器移植を強要される」というような誤認識があります。普及啓発では、移植医療への理解が大切です。私たちは「臓器を絶対提供しないといけない」とか「臓器移植を進めないといけない」とは考えていません。パーセンテージとして低いですが、もし脳死になった場合、自分自身の臓器提供の意思表示ができていて、ご家族とも話し合いをして理解されているという状態が望ましいと考えています。健康な時に、ご自身の意思表示ができるように、普及、啓発に努めていきたいと思っています。

小倉 AED(自動体外式除細動器)プロジェクトでは、万博、オリンピック、マラソンなどで、心停止の人が社会復帰していくために普及していくことを、医師会が中心となって進めてきました。移植医療についても同様に強いリーダーシップが期待されますね。岐阜大学病院や岐阜大学ともいろいろコラボレーションが考えられますね。

水口 総務課長(事務局長)にも協力いただいて、岐阜大学の大学祭などで啓発をしたり、サテライトキャンパスや大学の窓口でもカードを設置したりしてきました。そのほか、ロビーコンサートで、パンフレットや啓発グッズなどを配らせていただき、一つのきっかけになりました。

上野 普及啓発活動では、幅広く知っていただくために講演を行い、パネルやバナー展示、カード配布なども行っていますが、5月の看護週間の時には、大学病院で開催しました。今後も、病院内ではいろいろな催し物が開催されていますので、一緒になって普及啓発活動をさせていただきながら、岐阜県独自の取り組みも考えていきたいと思います。
小倉 可能性はありますよね。入院患者に気を使いすぎず、移植への理解が「普通のことだから」ととらえて、いい形で普及、啓発が広がっていくといいと思います。

【岐阜県ジン・アイバンク協会とは】

岐阜県のアイバンクとして、1967(昭和42)年3月に発足。財団法人岐阜県ジン・アイバンク協会を経て、2012(平成24)年4月1日から公益財団法人岐阜県ジン・アイバンク協会としてスタート。角膜、腎臓をはじめ、臓器移植による治療を必要としている方のために、臓器移植に関する普及啓発、臓器提供意思表示カードなどの普及、角膜移植等に関するあっせん、腎臓移植希望者の登録と検査に関する支援、臓器移植に関する知識の普及啓発と移植医療推進事業を行っている県内で唯一の機関。

【過去の様子】

第一回 病院長×保安職員

第二回 病院長×医療ソーシャルワーカー

第三回 病院長×誠仁会

第四回 病院長×リハビリテーション科

第五回 病院長×クラーク

第六回 病院長×がんセンター

[次のお話へ]