第8回 病院長のゆかいな仲間たち

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【臨床工学技師】医療機器の操作、管理のスペシャリスト 

病院長×MEセンター
岐阜大学医学部附属病院  小倉 真治 病院長
MEセンター 臨床工学技士 小嶋 寛正  和田 典子

生命維持管理装置の操作、管理に携わる

小倉 臨床工学技士とは、病院の中でどういう仕事をしているのか、聞かせてください。

和田 医師の指示の下、大学病院内にある生命維持管理装置などの医療機器の操作や保守点検を行っています。

小倉 一般の人に一言で説明する時、的確に表現するのがなかなか難しいよね。まずMEから説明しないと。

小嶋 そうですね。MEとはMedical Engineerの略で、日本語にすると臨床工学技士です。CE(Clinical Engineer)と呼ぶこともあります。

小倉 具体的には、どのようなところで業務を行っているの。

小嶋 救命救急センター、集中治療室、透析室、手術室、心臓カテーテル室、内視鏡室などです。

小倉 オペ室ではどういう業務をするの?

小嶋 人工心肺装置の操作や手術支援ロボット「ダヴィンチ」のセッティングなどですね。

和田 内視鏡室では、治療の時にメスと注射の入れ替えなど先生の補助をします。

小倉 内視鏡の中のカテーテルを取り替えて渡すということ?

和田 そうです。

小倉 機器の管理だけじゃなくて、処置も手伝うんだ。

小嶋 治療の介助もするようになりました。

小倉 内視鏡をセットして洗浄しているのを中心にやっていると思っていたけど、それは初耳だ。カテ室では?

小嶋 ペースメーカーの植え込みの立ち会いや、心臓内部で不整脈の原因となっている部分を高周波で焼き切る「アブレーション(心筋焼灼術)」という治療をする時に、診断装置の操作をしています。

和田 救命救急センターや集中治療室では、救急の血液浄化療法も行っています。
小倉 臨床工学技士を一言でまとめると、医療に関わるあらゆる機器を操作するスペシャリストということだ。しっかり言葉にできると、自分の仕事にアイデンティティーが持てるようになるね。

必要性の高い国家資格

小倉 どうして臨床工学技士を目指したの。

小嶋 よく聞かれますね。

小倉 定番、定番。僕がなぜ医者になったのかと聞かれるのと一緒。

小嶋 医療系の国家資格を取ろうと。

小倉 これで臨床工学技士が国家資格だということがわかるよね。

小嶋 そうですね。いろいろ調べたら、放射線技師、検査技師などがあって。さらに調べていくと、「これから必要性の高い資格」と書いてあって。20年ほど前ですかね。

小倉 いい読みだね。小嶋くんが来た頃、臨床工学技士は3人だったけれど、今は14人と病院も必要性を感じて広げていった。そういう時期は、もう少し続くよね。

小嶋 人が増えて助かりました。

和田 高校生の時には職種自体も知らなかったんですけど、調べてみたら、実家から通えるところに専門学校がありました。見学に行って、「人工心肺がやりたい!」と思って、目指しました。

小倉 どうして高校の時にやりたいと思ったの?ドラマか何か?

和田 見学の時に人工心肺のビデオを見せてもらって、やりたいと思いました。実はPHSにもつけているんですよ。心臓のストラップ。

小倉 マニアだよね。

小嶋 リアルだね。

小倉 それは売っているの?

和田 はい、ネットで探して。

小倉 これを見てもわかるように、彼女は血が好きなんですよ。人工心肺は、装置に繋いで、ポンプを回し始めた瞬間、血液がざっと流れて、その後、体に戻っていく。そのダイナミックな血液の動きに心を奪われていったと思うよ。

和田 そう言われると、小さい頃から図鑑などを見ていたかも。血液と心臓の形が好きです。

小倉 臨床工学技士を目指していた同級生はいたの?

和田 いませんでした。看護師を目指す人は何人かいましたけれど。

小嶋 高校では、私1人だけでした。小さい頃、プラモデルを作るのが好きでしたね。
小倉 臨床工学技士は元々、病院で機械を点検していた人が臨床に出てくるようになった。僕が若い頃の工学技士は、常にハンダ付けをしている感じだった。ある意味、技士は侍だね。

岐阜大学病院は症例が集中するから力が付く

小倉 臨床工学技士という仕事に就いた時の印象は。

小嶋 岐阜大学病院に来る前は、透析だけを行っている病院にいたので、透析を専門にやっていましたが、岐阜大学病院では、人工心肺装置や人工呼吸器なども扱うようになって、忙しさに圧倒されましたね。しかも来た当初は3人で、そのうち私も含めて2人が新人でしたからね。当時は見て覚えるというような感じでした。

小倉 初期の頃はそういう傾向が強くなるよね。僕がついた教授というのは、僕が初めての弟子で、朝から晩までずっと貼り付けだった。言い換えると、自分に症例が集中するから、ぐっと力がつくよね。

小嶋 はい、経験を積むことができました。やるしかないという感じでしたけど。

小倉 和田さんの時は何人くらいいたの?

和田 同期は2人で、全員で5人でした。
小倉 最初の赴任が大学病院だと、それが普通になるよね。最近は業務の隙間ができないように、人数を増やして交替勤務で誰かが必ずいるようなシステムがようやく整えることができたね。

病院の中枢を支える大事な人たち

小倉 日頃から大切にしていることは

小嶋 先生方とコミュニケーションをしっかり取るように心がけています。

和田 先生方も優しいので、安心してお話ができます。

小倉 ちょっと待って。そうなの。優しいという評判は初めて聞いたけど。

和田 最初のイメージはきついこと言われるかなと思っていましたが、そんなことはありませんでした(笑)。

小倉 臨床工学技士で意識していることは?

小嶋 自分が失敗したら、患者さんが危機的な状況になるので、気を引きしめています。医療機器の取り扱いは命に直結することもありますので、しっかり業務にあたっています。

小倉 失敗したことないの?

小嶋 ありません。

小倉 整備した機器が不調になって、「あっ、イター」というのはないの?

小嶋 完璧に点検していても機械なので、急に故障することはあります。

小倉 そうかそうか。なるほどね。

小嶋 点検は完璧にしていても...。不可抗力というのはありますけどね。

和田 確かに。

小嶋 急な故障への対応も重要な仕事と認識しています。

和田 命に関わる業務ばかりなので、緊張感があります。救急車の音がなったら、これ私たちが出動しないといけない症例かなと思うこともよくあります。私たちが向かう時は、超緊急事態で、PHSが鳴ると、どんな患者さんが来たんだろうと思います。

小倉 この仕事は365日、24時間の業務だしね。使命感を覚える時は?

和田 緊張感で吐きそうなときありますよ。

小倉 どういう時に?

和田 ECMO(エクモ)の時です。

小倉 ECMOというのは、人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療で、かつては羊で実験していた。熊本が日本で先行していて、研修の時は熊本まで行っていた。人間の心臓と肺の代わりとなる人工肺とポンプを使って、体内から血液を出すこと。ここにトラブルがあると命を落としてしまうよね。

和田 超緊急の血液浄化の場合、血圧が50から60くらいで。

小倉 敗血症、感染症などで血液浄化する時は、元々の血圧が低いので、ドクターは必死で血圧を上げようと、輸液したり輸血したり点滴したりして、上げようとする。ポンプが横にあって、ぐるっと一周した瞬間、血圧がすっと下がる。20ccの血液が抜けた時に血圧が下がる。そういう経験は、僕らですら血が下がる思いをする。

小嶋 目の前で患者さんが危ない状況で、血液浄化療法を行わないと助からないという時は緊張しますね。

小倉 逆に、そういう患者さんがよくなっていくと、「ヨッシャー」と思うよね。

小嶋 チームの一員として、喜びを感じる瞬間は同じですね。
小倉 臨床工学技師という仕事は、よく知っているつもりだったけど、実際に話を聞いてみると、知らないこともいっぱい出てきて。今でも患者さんが運ばれてきてドキドキしているとは思わなかったなあ。仕事に対するひたむきさを持ちながら、後輩が増えて、たくましくなったようにも感じます。これからも病院の中枢を支える大事な人たちなので、ぜひ頑張ってほしいです。

【過去の様子】

第一回 病院長×保安職員

第二回 病院長×医療ソーシャルワーカー

第三回 病院長×誠仁会

第四回 病院長×リハビリテーション科

第五回 病院長×クラーク

第六回 病院長×がんセンター

第七回 病院長×公益財団法人岐阜県ジン・アイバンク協会

[次のお話へ]

▲小嶋 寛正
▲小嶋 寛正
▲和田 典子
▲和田 典子