【シダックス㈱】「おいしい」と言ってもらえる食事を提供
病院長×シダックス㈱
岐阜大学医学部附属病院 小倉 真治 病院長
シダックス㈱ 管理栄養士 柘植 友美子 平田 佐智代
朝4時から始動 1日約1300食を用意
小倉 シダックスというと、カラオケというイメージが強いけれどね。
柘植 もともとは給食業界から始まり、カラオケなどにも進出しました。
小倉 それは知らなかったなあ。
平田 企業の社員食堂や保育園の給食など、いろいろなところに参入しています。
小倉 そうなんですね。大学病院ではどのような業務をされているんですか。
柘植 患者さんの食事を作る給食業務になります。管理栄養士が10名ほど、栄養士が10名、調理師5名、盛り付けを担当するパートの方も合わせると50名ほどで活動しています。料理を作るのは調理師で、大きな鍋で作っています。
平田 管理栄養士は、調理師や盛り付け担当に指示を出したり、食物のアレルギー食やたんぱく制限食など個別の対応が必要な患者さんの調理を担当したりしています。
小倉 1日何食くらいになりますか。
平田 1食あたり450食で、1日1200~1300食ほどですね。
小倉 相当数の配膳を用意していただいていますね。1日の流れはどんな感じですか。
柘植 朝一番早い人は4時にご飯のスイッチを入れたり、みそ汁を作ったりまします。そこから1時間刻みで5時出勤、6時出勤となり、一番多いのは8時台で、遅番の10時と刻んでいきます。1日あたり洗浄担当も含めて30人くらいで回しています。
小倉 病院には栄養管理室があって、そこは室長がいますが、その下に病院の職員として管理栄養士がいますが、業務のすみわけは。
柘植 栄養管理室の管理栄養士の方は、病棟の業務として患者さんとお話して食事の内容を確認します。私たちはその指示に基づいて、調理しています。
小倉 なるほどね。そうすると、患者さんとお話することはないですか。
柘植 食堂で食べられる患者さんに食事をお渡しする時にお声を掛けることはありますが、直接栄養の話などは、病院の管理栄養士さんが対応しています。
小倉 知らないドクターも多いと思うよ。同じ管理栄養士だけど、業務が重複しないように、分業して連携を図っているんですね。
柘植 委託という関係ですが、単なる委託業者としてではなく、いろいろな意見を聞き入れてもらっているので、とても働きやすい環境です。
最高の患者サービスはおいしいお米と料理
小倉 実は毎週水曜日に検食があるので、管理栄養士の方とはお目にかかっているんですよね。検食については、僕はうるさいんですよ。
柘植 貴重な意見をいただいています。
小倉 はっきり言うんですよ。最高の患者サービスを提供するにはやっぱりご飯でしょう。お米がまずいと食も進まないですから。1食あたり30円くらい上がったけれど、おいしいお米に替えてもらいました。炊き方などの工夫はしていますか。
平田 新米と古米では加水量が違うので、調理師さんと相談して、季節によって調整して、同じ品質を維持できるようにしています。
小倉 料理で工夫しているところはありますか。
柘植 温度は一番大事ですね。温冷配膳車を使って、温かいものは温かく出せるようにしています。もちろん、作り手の愛情もこめています(笑)。味付けも、塩分などを最大限調整しています。
小倉 減塩食でも、出汁で塩分が少なくてもおいしく食べられる工夫をしていると聞きましたが。
平田 昆布などで出汁の風味をきかせて調味液を少なくしたり、真空調理で調味液は少なくするけれど、パッキングしてぎゅっと味が入り込むようにしたりしています。
小倉 1食あたりのボリュームもあると思いますが、献立を決めるときに意識していることはありますか。
柘植 必要な栄養量を充足することが必要なので、お肉の量、お野菜の量、ご飯の量については、必要エネルギー量に合わせて調整しています。例えば、ご飯の量は1日1800kcalーの方には1食190g、1日1400 kcalの方には140gにしたり、お肉の量は80gを60gにしたり、献立で調整しています。
小倉 入院中はお酒が飲めないから、カロリーコントロールが楽だよね(笑)。献立はどうやって決まるんですか。
平田 献立担当者がいますが、お肉やお魚が重なったり、和洋中が重なったりしないように立てています。
小倉 年中行事などイベントの時にも工夫されていますね。
柘植 はい。例えば、クリスマスの時にはケーキやタンドリーチキン、お正月の時にはおせち料理にするなど、雰囲気だけでも味わってもらえたらと思ってお出ししています。
小倉 入院していても季節を感じられるように工夫は大事ですよね。
おいしく食べられるように盛り付けも工夫
小倉 病院では、食のコントロールが大事になりますが、日常の業務で大切にされていることは。
柘植 食べてもらえないのは切ないのですが、患者さんがしっかり栄養を取れて、「おいしい」と言ってもらえるように意識しています。
小倉 病状によっては食べられない方もいらっしゃいますからね。
平田 お肉は食べられないとか、お魚が食べられないとなると、食べられる食材が限られてくるので、どうやっておいしそうに見せるか、盛り付けも意識しています。少しでもきれいにおいしそうに盛ろうとしています。
小倉 本当はもっといいお皿にして、盛り付けが映えるようにしたいという思いはあり続けているんですが、いかんせん、洗う機器に費用がかかってしまうんですね。不要不急なので、診療機器を優先せざるを得ないのでね。配膳間違いなどへの対策は。
柘植 食堂ではバーコード認証で一人一人確認していますので、必ず配膳間違いがないようにしています。
小倉 食中毒など安全面、衛生面で気を付けているところはいかがですか。
平田 手洗いを一番考えています。入る前には、手洗いを2度、爪ブラシを使って行っています。体調不良の方には隠さずに報告してもらって、リスクを事前に食い止めるように努力しています。
小倉 お二人ご自身が、日ごろから気を付けていらっしゃることはありますか。
柘植 どこか訪ねた時に、その地元の食材を使っている時は食べるようにしています。
平田 検食で患者の皆さんと同じものをいただいているので、バランスが取れていると思います。
患者さんの「おいしい」の一言が励みに
小倉 大学病院での管理栄養士という仕事のやりがいは。
柘植 なったばかりの時は、大量調理するということが全く頭になかったのですが、やってみると、大変ながらも「やってやるぜ」と愛情をこめて調理を担当しています。これからは献立についても、もう少し突き詰めていきたいと思っています。
小倉 患者さんのアンケートはどのようにフィードバックされているんですか。
柘植 患者さんから「おいしかったです」とか「きょうで退院するけれど、温かい食事ありがとう」というメモをいただいたり、下膳の時にお盆の上に置かれていたりして、患者さんの意見をいただいたものは、食堂で紹介したり、ノートに貼ったりしています。「おいしくない」という声も時々ありますので、献立を見ながら、いただいた意見を共有しています。
平田 病院の食事となると、固く考えがちでしたが、調理師さんと分担しながら食事を作って、毎日の仕事をやりきった時に、患者さんから「うれしいよ」「おいしいよ」と声を掛けてもらえるとうれしいので、やりがいになっています。食堂や下膳で各部屋に食器を下げに行く時にわざわざ呼び止めていただいて、お声を掛けていただくのも励みになります。
小倉 本当にそうですね。これからやってみたいことはありますか。
柘植 病院で実現するのはなかなか難しいかもしれませんが、患者さんの希望に沿ったおいしいものを提供する機会があるといいのかなあと思うこともあります。例えば月1回、こんなメニューを出してほしいというのを事前にお聞きするなどして、患者さんの思いに応えられるといいなあと思っています。
小倉 メニューを公募して、「今月はこれをアレンジして給食にしました」という感じだったら、できそうな気がするよね。患者さんとの交流も近くなるかもしれないし。常食の人なら、カロリーや塩分は、できる範囲でメニューをアレンジしたら、あり得るかもしれないよ。
柘植 献立を一つ変えるだけでも大変ですが、前向きにいろいろな可能性を考えてみたいです。
小倉 いまはルーティンワークが多くて、追いかけられている印象もあるかもしれませんが、将来に向けて、もっともっと幅を広げるチャンスがあると思いますので、新たなアイデアを出して、具現化できるように頑張ってください。
【過去の様子】