第12回 病院長のゆかいな仲間たち

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【セントラルヘリコプターサービス㈱】「1分を削り出す」 救急現場の最前線に立つ

病院長×セントラルヘリコプターサービス㈱
岐阜大学医学部附属病院 小倉 真治 病院長
セントラルヘリコプターサービス㈱ パイロット 長藤 晋平  整備士 永田 正文

気象状況の確認、機体の整備を万全に

小倉 ドクターヘリは肝いりの事業でした。お二人とはドクターヘリが導入される防災ヘリ時代からのお付き合いになりますが、どれくらいになりますか。

長藤 パイロットとしては30年弱で、ドクターヘリは15年ほどになります。

永田 ドクターヘリは16年くらい担当しています。

小倉 あらためて、どのようなお仕事をされているか教えていただけますか。

長藤 操縦士は、安全に飛ぶことが第一です。消防本部と連携を取りながら、安全にドクターとナースを効率よく確実に患者さんのもとに送る役割を担っています。患者さんを乗せた場合には、患者さんの負担にならないように飛ぶということも意識しています。

小倉 患者さんを乗せた時と乗せていない時では、ヘリの飛ばし方は違いますか。

長藤 違いますね。行きはできる限り直線距離で真っ直ぐ向かいます。帰りは、行きに状況が分かっているので、様子を見ながら、あまりにも揺れるようでしたら揺れないルートを選びます。

小倉 行きは揺れるんですね。

長藤 直線でできるだけ早く向かうために、ドクターとナースには多少の揺れは我慢してもらっています。

小倉 揺れは覚悟していると思います。基本的には酔わないんですが、ヘリの中で、点滴を取るなど細かい仕事をすると、僕でも酔いますね。整備士はどのような業務になりますか。

永田 朝来てから、フライトができるかどうかの判断をします。異常もなく、飛行に問題がない場合は、機長に報告します。フライト中では機体の異常がないか確認するのが一番の仕事になります。着陸してから、安全監視が第一の仕事です。

小倉 そうすると、1日の流れはどのような感じですか。

長藤 8時半から運航開始ですので、それまでに機体や自分たちの飛行準備をします。CSというコミュニケーションスペシャリストとウエザーチェックを行い、1日の始まりがスムーズに進むように活動しています。8時半からは待機になり、要請があるまでは、パイロットは常にウエザーチェックをしながら、CSと天候の情報共有をして待機しています。

永田 整備士も燃料の品質確認や点検など飛行前点検を行い、待機業務に入ります。合間に書類作成などの業務をしています。また、季節によって違いますが、午後5時10分ごろまで出動を受け付けていますので、機体全体の点検をしながら、飛行時間の管理もしています。

長藤 機体は格納庫から地上へリポートに出します。最初の運航があるまでは地上へリポートで、一旦運航が始まると、次に着陸する時は、燃料の補給装置がある屋上のヘリポートに止まって待機します。

小倉 ドクター、ナースとの意思疎通は。

長藤 朝のミーティングでは、天気概況や日没の時刻などを確認し合っています。
永田 ヘリコプターには操縦士、整備士、ドクター、ナースの4名が搭乗していますが、私たちそれぞれがそれぞれの専門家で、運航クルーと医療クルーと合わせてドクターヘリクルーと言われています。4人で現場に行って、専門分野でやれることや、いかにして一つの目標を達成できるかを日ごろから考えています。

データと経験で安全フライトを遂行

小倉 明確であるのは、まず、現場の安全、自分たちの安全が確保されて、次に患者の安全になります。ドクターヘリに関しても任務の安全については、完全にパイロットに委ねています。パイロットが飛べないと言えば飛べません。そこを確保してもらってようやく私たちも活動できますから。

長藤 運航するかしないかは天候に左右されますので、CSを交えて最新の天気概況を見ながら、相談し合っています。

永田 CSは司令塔になりますから。

長藤 すべての情報がCSに集まってきます。消防からの要請、支援の情報、患者さんの容体などがCSに集まり、どこのポイントに飛ぶかどうかがその時点で決まります。マイナーのトラブルがあった時は運航を中止したり、トラブルシューティングしてその場で修理したりしますが、それらの情報展開の中心がCSです。そのCSとの情報共有が安全なフライトにつながります。

小倉 同じ条件ということはあまりないと思いますが、状況判断ですか。

永田 その状況でベストの選択をしていきます。目の前にある資源の中でベストの選択が求められています。

小倉 その辺りは経験を積んだ感覚ですか。

長藤 経験も必要ですが、平時の運航では、気象データが重要ですね。経験が必要となってくるのは、実際に飛んでからどのように判断するかになりますね。

小倉 単純なものではないですよね。

長藤 ドクターヘリという運航に限ると、「行く場所がどういう天候になっているか」を常に把握しながら、どういう事案が入ったか、救急車との合流地点となるランデブーポイント(場外離着陸場)の状況などを確認します。天候さえ問題なければ、離陸してからどのように飛行するかはパイロットの判断になります。それは経験によります。例えば、風が強い時には高度を高くとるのか、低くとるのかなどはパイロットの経験値ですね。

小倉 ドクターヘリは副操縦士がいないので、整備士の方の役割も大きいですよね。
永田 ヘリが運航すると、パイロットのサポート役も兼ねます。例えば、操縦士のナビゲーションの補佐をしたり、消防無線からの交信をしたり、ランデブーポイントのGPS入力や見張り役なども行っています。

最北端まで30分で急行 1日最大6フライトも

小倉 フライトにおいて、岐阜県の特徴的なことは。

長藤 山岳地帯が多いので、気流が乱れやすく、降りる場所も限られてしまうことがあります。ランデブーポイントを設定できない地域もあります。また、岐阜県は面積が大きく、岐阜大学病院などの拠点が南に寄っていることもあり、1フライトが長いことも挙げられます。最北端の飛騨市の場合、最大30分ほどかかります。普段でも15分ほどの場所を動いています。

小倉 皆さん思っていらっしゃる以上に、1日5回飛ぶと相当体の負担になるんですよね。パイロットや整備士はもちろん、ドクターやナースも5回は疲れますね。

長藤 最大6回という時がありますね。他の拠点では、30分というと、一つ仕事が終わっていますから、県内で6フライトというと、他の拠点では7~9回ほどのフライトに相当すると思います。

永田 そのほかの面では、119番から始まって、連携の強さ、大切さを感じます。
小倉 控えめに見て、約200人(約10%)はドクターヘリがなかったら助かっていなかった、社会復帰できなかった方とみています。ドクターヘリは究極のサービスです。助かるか助からないかの命を、道具があるために救えるのは、岐阜県に関しては、連携がしっかりとれていて、基地病院である岐阜大学の救急医療のクオリティーが極めて高いので、ドクターヘリがツールとしてより有効に使えると思っています。まさに鬼に金棒ですね。

「1日無事に終わりました」が一番の安堵

小倉 日ごろの体調管理も大事ですよね。

長藤 パイロットは厳格で、航空身体検査が55歳以上は半年に1回、55歳未満は年1回、義務付けられています。社内でも人間ドッグや健康診断制度もあります。日常でも健康を意識しながら生活します。お酒はたしなみますが、航空法上フライトの8時間以内に飲酒してはいけないとあります。私の場合、最低12時間、翌日フライトがある時は飲まないようにしています。

小倉 オフとオンの切り替えはどのような感じですか。

長藤 家を出たころから徐々に緩い緊張感が始まって、格納庫ではほどよい緊張感の中で待機して、無線が入った瞬間、脈が上がるようにスイッチがオンに入りますね。ある程度緊張感をつないで、着陸して燃料を入れて、次の待機準備を終えたころに、当初の緩い緊張感に入っていきます。

永田 待機している間、常に緊張は無理ですが、無線機の連絡でスイッチオンですね。

小倉 ドクターもそんな感じですね。間髪あけずに要請が待っていることもありますよね。

長藤 深呼吸、トイレに行くなり、一度切り替えて。そのまま切り替えずに行くときもありますが。

小倉 落ち着く時は。

長藤 終わって着替えて、格納庫出る時にシューっと緊張感が取れて。余韻は残っていますが、帰りながら消えていく感じですね。

永田 1日終わって格納庫に機体を入れた時ですね、「今日も何もなく終わってよかった」と思うと、ほっとしますね。
小倉 救命救急センター長としても「1日無事に終わりました」というのは本当にうれしいですね。飛行回数は2500回を超えますが、皆さんのおかげで無事故を続けています。標語は「この1分を削り出せ」。その最前線で1分を削り出してもらっています。大学の中の救急チームの一員として全クルー、一緒にやっていただいていて非常にありがたいと思っています。今後もぜひ会社を挙げて病院と一緒に一つのチームとして頑張っていただければと思います。

【過去の様子】

第一回 病院長×保安職員

第二回 病院長×医療ソーシャルワーカー

第三回 病院長×誠仁会

第四回 病院長×リハビリテーション科

第五回 病院長×クラーク

第六回 病院長×がんセンター

第七回 病院長×公益財団法岐阜県ジン・アイバンク協会

第八回 病院長×MEセンター

第九回 病院長×(株)トーカイ

第十回 病院長×アシスタントコンシェルジュ

第十一回 病院長×シダックス㈱

[次のお話へ]

▲長藤 晋平
▲長藤 晋平
▲永田 正文
▲永田 正文