【遺伝子診療部】患者や家族の意思決定を支援
病院長×認定遺伝カウンセラー
岐阜大学医学部附属病院 小倉 真治 病院長
遺伝子診療部 認定遺伝カウンセラー 仲間 美奈
情報提供とカウンセリングを行う
小倉 認定遺伝カウンセラーの仕事は、遺伝診療部のど真ん中の業務をほぼ担っていると言ってもいいくらいなお仕事になりますね。
仲間 遺伝子診療部が始まった時は、小児科の疾患を中心に活動してきましたが、徐々に活動の幅を広げていきました。
小倉 認定遺伝カウンセラーは、どういうお仕事をされていますか。
仲間 多岐にわたりますが、メインとなるのは、相談に対して、「情報提供」と「カウンセリング(心理社会的支援)」を行って、患者や家族が意思決定できるように支援することです。患者さんの背景や家族の情報もさまざまなので、遺伝子検査を希望する理由や目的を丁寧に聞いて、病気の状況を正確に知るところから始まります。検査を行った患者や家族に対しては、医師が事実を伝えた後に、内容をかみ砕いて補足の説明をしたり、結果について話し合ったり、難病指定の場合は助成を受けられることなど医療資源の情報も提供します。
小倉 病院内で、ほかの医療スタッフとはどのように関わっていますか。
仲間 専属のカウンセラーは1人です。外科、内科、小児科、検査部、病理部、薬剤部、看護部など、さまざまな診療科の先生や看護師の方々と関わっています。自費診療であるため、事務の方にもご協力をいただいています。予約の時から、会計のところまでさまざまに連絡を密にやりとりをしています。
小倉 実際に患者さんはどのように来られるのですか。
仲間 予約の取り方も外来とは違って特殊です。外来から連絡をもらう場合は、本院で対応できる相談かどうかを確認して、自費であることもご了承いただきます。また、混合診療になるため、診察とは別の日にお越しいただくことになります。
小倉 対応できるかどうかの判断基準は。
仲間 例えば、ハンチントン病は、お父さんがかかっていた場合、その子である相談者には50%の可能性があります。当院は、カウンセリングはしますが、遺伝子検査はしません。将来の自分の発症を知ることになってしまい、もし具体的な治療法がない場合、未来に絶望してしまう可能性があるので、慎重に対応していきます。将来に希望が持てない場合は、臨床心理士に入ってもらうなど、細かな心理ケアが必要になります。
小倉 遺伝カウンセラーがカウンセリングすると思っていたんだけれど。
仲間 カウンセリングは心理ケアではなく、情報をお伝えするという意味なんです。
小倉 なるほどね。そういう時は心理カウンセラーが必要なんだね。
仲間 特に心理面の配慮が必要な病気については、心理カウンセラーとともに、その方の診断のためのステップを考えることになります。そのほか、原因の遺伝子がはっきりしている場合、技術的には検査はできますが、倫理に関わる親子鑑定などは、医療の対象ではないので対応できないということもあります。いま心配されている病気について、どういうことが心配で、どういうことが目的で遺伝子診療部での診療を希望しているか、主治医と本人からかなり細かく聞いてから予約を受けるようにしています。
小倉 そこが大変だよね。まさにカウンセラーがいないと一歩も進まないから。
仲間 遺伝の病気はたくさんあるので、遺伝子がどこまで分かって、遺伝子検査で結果を出せるのか、即答できない場合もあります。また、いくつかの検査については、保険診療としてできるようになりました。保険で対応できるものであれば、どこかの診療科にかかってもらって対応するという流れを作ります。対応できない場合は、全国で対応している病院をご案内することもあります。
小倉 患者さんの症例ごとにオーターメイドということですね。
遺伝子検査の希望者は増加傾向
小倉 遺伝子診療部に遺伝子カウンセラーを常設したのは、小児科の先天性の疾患が多くて、こういう組織が必要だということから来ていただきましたが、一般の方には、遺伝子診療部はまだなじみはないですか。
仲間 まだ知られていないという感触ですね。ただ、血縁者の方に、がんなど遺伝性の病気を患っている方がいらっしゃる場合、お問い合わせは増えてきましたね。がん家系という認識を持っている方は遺伝子を調べたいとご相談されます。
小倉 どうやって患者さんは遺伝子診療部を知るんですか。
仲間 院内のどこかの科にかかっていて、遺伝かもしれないと言われて、紹介されて来られます。
小倉 どのような相談が多いですか。
仲間 例えば、「自分の病気は遺伝子検査で調べられる病気なのか」「遺伝子に変化が見つかったら、どのような対処法があるのか」「子どもにも遺伝する病気なのか知りたい」「遺伝子検査の結果を家族にどうやって伝えたらいいのか」といった相談があります。乳腺外科などの腫瘍外科では、家族の中で、ある特定のがんを発症している方がいると、遺伝性のあるがんではないかと疑いをつけられ、問診票でご家族のがんの病歴をお聞きしています。遺伝の可能性がある場合、連絡を希望された方には、私から後日連絡して、「一度遺伝子カウンセリングにいらっしゃいませんか」という啓発を行っています。遺伝子診療部に直接電話をされてくる方もいますが、垣根が高いと感じていらっしゃる方もいると思いますので、問診票を通じて、ご連絡するという取り組みをしています。
医療と科学が結びついた世界で研究を生かしたい
小倉 遺伝カウンセラーを目指したきっかけは。
仲間 大学は農学部出身で、大学院を修了した後、一般企業に就職しましたが、人と関わることが少なくて、もう少し人と関わる仕事がしたいと思うようになりました。それまで研究してきた遺伝子やDNAは、医療の分野では夢物語でしたが、遺伝子診断はかなりできるようになりました。医療と科学が結びついた世界で、自分の学んだ遺伝子の研究を生かしたいと思い、遺伝カウンセラーという職業があることを知って、大学院に行きました。
小倉 出身学部は関係あるんですか。
仲間 カウンセラーになるためには学部は特に決まっていなくて、看護師、心理士、検査技師といった人たちも、カウンセラーを目指していました。私の場合、農学部だったので、高校のころから遺伝子に興味がありました。
小倉 医学部より農学部のほうが遺伝子は強いからね。
仲間 医療となると人が相手になるので違いを感じますが、新しい発見があった時に、病気が発症するメカニズムを科学的な根拠から説明ができていくと、奥が深いと思います。
小倉 この道で良かったという感触はありますか。
仲間 充実感があります。患者さんとは一期一会で、深刻度合いも性格も望まれていることも全く違いますが、状況に応じて、正確で最新の情報を分かりやすく伝えていけるように努めています。
患者さんの心の内側にある声と向き合う
小倉 遺伝カウンセラーをしていて、大切にされていることは。
仲間 患者さんやご家族が何を一番心配されていて、どういう返答を求めているのかを考えています。質問した時に、返事の裏側にあるうまく表現できない思いにたどり着けるように一人一人と向き合うようにしています。おそらく、主治医では話しづらいこともあると思うので、耳を傾けながら、話せるようなきっかけを作って、少しでも患者さんの利益につながるようにしたいです。
小倉 岐阜県にはまだ一人しか遺伝カウンセラーはいないけれど、これから、県内のほかの病院でも遺伝カウンセラーが増えていった時に、仲間さんがスーパーバイズする立場になって広がっていくと思うので、ぜひ他県との遺伝カウンセラーとも交流を深めて、高めていってほしいですね。
仲間 指導を仰ぎながら、その経験を後進に伝えていけるようになりたいです。
小倉 岐阜大学病院で新たな遺伝子診療部の立ち上げの部分で、中心的な役割を担ってきてもらいました。相談の数が増えていっているという意味でもニーズを的確にとらえていると思います。これからも力を伸ばしつつ、病院の基礎として頑張っていただきたいと思います。
【過去の様子】